オープンデータの活用で地域課題を解決、「アーバンデータチャレンジ2023」ファイナルステージが開催

オープンデータの活用で地域課題を解決、「アーバンデータチャレンジ2023」ファイナルステージが開催

実行委員長の関本義秀氏(左)と一般部門で金賞を受賞した「Stature 168」チーム

地域の課題解決や魅力創出を目的にオープンデータや活用ツール、アイデアなどの創出を目指すプロジェクト「アーバンデータチャレンジ2023 with土木学会インフラデータチャレンジ2023」(主催:社会基盤情報流通推進協議会、土木学会、東京大学生産技術研究所、東京大学デジタル空間社会連携研究機構、アーバンデータチャレンジ実行委員会)のファイナルステージが3月9日(土)、東京大学駒場リサーチキャンパスおよびオンラインのハイブリッドで開催された。

アーバンデータチャレンジ(UDC)は、地方自治体発のオープンデータや社会インフラに関する情報収集や情報配信の環境を整備して、そのようなデータを使用したツールやアイデアを作品として仕上げるプロジェクトで、全国の都道府県単位で地域拠点を認定し、ワークショップなどのイベント開催を通じて持続的なコミュニティの形成・成長・横展開に取り組むことを目的としている。さらに、地域拠点の活動によって創出されたアプリケーションやデータ、アイデアなどを表彰するコンテストも行われる。

同プロジェクトは2013年度にスタートし、2019年度からは土木学会と連携して「土木学会インフラデータチャレンジ」との共同運営として実施している。今回のファイナルステージは1年間を通じて様々な地域活動が行われた同プロジェクトを締めくくるもので、昨年に引き続き「デジタル裾野/南砺協議会」の公開シンポジウムとの合同開催となった。

午前中にはデジタル裾野協議会会長の広瀬絵里加氏による開会の挨拶のほか、デジタルシティサービス「デジタル裾野」および「デジタル南砺」に関する活動報告やパネルディスカッションが行われた。午後はコンテストに応募された作品の中からファイナルステージに進出した作品の発表が行われ、最終的に応募された作品の中から最終審査会を開催し、優秀作品を決定した。

作品発表に先立って、UDC2023実行委員長を務める関本義秀氏(東京大学空間情報科学研究センター 教授)が挨拶し、本年度の取り組みやコンテストの応募状況などについて説明した。

UDCでは、様々な分野で課題を掘り下げていくために、「道路・交通」「住宅・土地・公園・公共施設」など10の分野を設置し、重点分野を毎年決めて各業界と連携しながら進めている。2023年度の重点分野は「農業・林業・漁業」および「産業・観光」で、この分野においてコンテストに受賞した場合は一律10万円の賞金が加算される。

2023年度の地域拠点は30となり、コンテストの応募作品数は131作品で、このうち121作品が一般部門、10作品がビジネス・プロフェッショナル部門への応募だった。部門ごとの内訳は、アプリケーション部門が48作品、データ部門が20作品、アイデア部門が46作品、アクティビティ部門が17作品。分野別では、重点部門となった「産業・観光」が40作品と多かった。

2023年度の作品応募状況

続いて、UDC2023の一次審査通過作品のプレゼンテーションが行われた。今年度、一次審査を通過したのは一般部門が14作品で、ビジネス・プロフェッショナル部門が5作品。これらの作品に対して参加者からの投票が行われ、投票結果および審査員による評価をもとに優秀作品が選出された。受賞作品は以下の通り。

【一般部門・金賞】

■「Knightモードで」帰らナイト。
(Stature 168)

地図アプリにアドオンして使用する防犯特化型の経路システム。遠回りしてでも明るい道や人通りが多い道を選択したいというニーズに応えて、安全性と距離を重視した最適な経路を表示する機能を既存の地図アプリに追加できる。人流データや街路灯の位置データ、犯罪統計データなどを活用して「人通り」「道の明るさ」「過去の路上犯罪」の3つの指標を用いて確保道に対して重み付け評価を行うことで、地域特性に合わせた安全な経路を提案できる。また、利用者が危険箇所を報告し、それを経路検索に反映することで、防犯対策の循環的なサイクルを実現できる。

【一般部門・銀賞】

■みんなのトイレマップ
(みんなのトイレマッププロジェクト)
https://toiletmap.net/


石巻市内の多目的トイレの情報がわかるマップ。チェックボックスにより多目的トイレの設備を絞り、個々人の必要性に応じて探すことができる。知りたいトイレをクリックすると写真や設備情報、利用可能時間や連絡先、自動ドアの有無など詳細情報も表示される。さらに今回は、市内の多目的トイレ140カ所以上の情報を再調査し、トイレの寸法やドアの幅、ドア固定の可不可などの情報や写真を追加した。

■GoVote KAWASAKI~さそいあって選挙にいこう!~
(GoVote KAWASAKI)
https://www.govote-kawasaki.jp/


「投票行動を川崎市民が身近に楽しめるムーブメントにしたい!」と願う川崎市内の団体・組織・企業が立ち上げた活動で、シビックテックやアート、教育など様々な団体や個人が参加している。今回は選挙ポスター掲示板の場所を地図に載せたウェブアプリを開発し、投票済証明書を持参すると割引となるサービス「センキョ割」の実施店舗や期日前投票所および投票所の場所も併せて掲載した。また、候補者には政策アンケートも実施し、その結果をSNSで発信した。

■車窓Grapher
(あなたの車窓から)
https://window-grapher.app.takoyaki3.com/


乗車中のバスから見えるランドマークをタイムリーに教えてくれるウェブアプリ。現在の位置情報をもとに近くを通るバスが表示され、追跡したいバスを選択すると、「間もなく○○が見えます」という通知がメールで送付される。バスからランドマークが見える領域(可視領域)は基盤地図情報の標高データとPLATEAUの3D都市モデルを用いて事前に計算し、GTFS-RTをもとに付近のバス一覧を表示するとともに、追跡するバスの位置情報をもとにバスが現在走っているメッシュを特定し、可視領域のデータを参照してそのメッシュから見えるランドマークがあれば通知される仕組みとなっている。

【一般部門・銅賞】

■岐阜ロゲver.2
(NPO 岐阜aiネットワーク)
https://www.gifuai.net/


岐阜県内においてロゲイニングを行う取り組みで、今年度は下呂温泉、郡上市、高山市、大垣市、岐阜市などで開催した。ロゲイニングでは専用アプリ「岐阜ナビ」を使用し、目的地にたどり着くと詳細情報が表示され、チェックインボタンが表示されたらタップして写真を撮影する。今年度からは人の流れを把握するため位置情報を記録する機能を搭載した。また、名古屋大学との共同研究により観光推奨エンジンも搭載しているほか、今年度はGTFSをもとにバスの時刻情報を競技者に配布した。来年度は観光推奨エンジンにGTFSデータを組み込むことで公共交通機関を含めたベストルートを提案できるようにするほか、視覚障がい者向けのガイドヘルパーシステムの開発を進める予定だ。

■日本全国の町丁目別緑被率オープンデータ
(鶴清藤)
https://doi.org/10.5281/zenodo.5553516


衛星データとクラウドベースGISを活用して緑被率を算出する方法を検討・検証し、日本全国の町丁目別緑被率をオープンデータとして整備・公開した。衛星データはSentinel-2の10m分解能のデータを利用し、Google Earth Engineを使って雲検出や画像合成を行いながらNDVI(正規化植生指数)を計算し、NDVIを町丁目緑被率に変換する統計モデルを作成した。作成したデータはオープン・アクセス・リポジトリにてオープンデータとして公開し、自治体職員も使いやすいように表計算ソフトで閲覧できるようにした。

■防災かるたアプリを活用した子供の防災意識改善に関する取り組み
(Code for Nagoya)
https://code4.nagoya/


ビジュアルプログラミング言語「Stretch3」(Scratchの改良版)で開発したアプリで、絵札と文字札は国民共済が公開するデータを利用している。アプリを実行するとランダムに文字札が選ばれ、合成音声で読み上げが行われる。プレイヤーが文字札に対応する絵札のカードを選び、カードをウェブカメラに映すと画像認識AIが正解を判定する。全部で10問が出題され、タイムを競うルールとなっている。同アプリの体験会を2回開催し、来場した子どもに遊んでもらうとともに、ChatGPTを活用してオリジナルの絵札・文字札も作成してもらった。

■HIYAMAP~GISを活用した安心・安全な「まち」づくり~
(アゼンジャーズ)
http://azeta.jp/hiyamap/home.html


兵庫県たつの市日山地区にある龍野高校の生徒による取り組みで、オープンソースのGISソフト「QGIS」を活用して日山地区の課題を可視化した。今回は「消火栓から道沿いでホースが伸びる範囲と放水範囲」、「AEDの設置場所からの距離」、「山下池の結果維持の浸水想定区域」の3つのテーマについて研究した。オープンデータは国土数値情報(道路データ)、AED設置箇所一覧(たつの市オープンデータ)、1mメッシュ標高データ(DEM)の3種類を使用した。消火栓の位置情報データは住宅地図をもとにフィールドワークで正確な位置を調査して作成し、消防署にも検証してもらった。また、山下池についてはハザードマップのPDFをもとにシェープファイル化し、他のデータと重ねられるようにした。

■人流データによる地域魅力度可視化システム
(近藤恵介氏)
https://keisuke-kondo.shinyapps.io/regional-attractiveness-japan/


人流データは情報が複雑なため意思決定に役立てるのは難しいため、「地域の魅力」を定量化・可視化した「地域魅力度指数」を算出した。人流データを移動人数と距離でグラフ化し、その曲線がフラットに近ければ近いほど、距離の制約を超えてより遠くから人々を引きつける力がある(地域魅力度指数が高い)ことがわかる。今回はドコモ・インサイトマーケティングの人流データやRESAS APIを使ってこの計算を行い、地図・時系列・表の3つの観点から地域魅力度を可視化した。

■ラーメン食べても罪滅ぼしウォーキング
(ラーメン(0kcal))
https://ramen-zerocal.vercel.app/


ラーメンを食べたことの“罪悪感”を払拭するための罪滅ぼし(運動)の支援を行うアプリ。山口市内のラーメン店を地図上で探せることに加えて、運動することでラーメンを食べた分のカロリーを消費できる距離(0キロカロリー地点)の範囲を地図上に円で示すことができる。0キロカロリー地点については、ラーメン1杯を500kcalとして、ウォーキングやジョギング、ランニング、サイクリングなど運動方法や片道・往復を指定することで算出して表示する。また、運動方法と運動時間を設定することで表示される青いエリア内にある観光スポットも地図上に表示されるため、観光促進ツールとしての側面も持っている。

■桜咲プロジェクトin奈良
(YuMakeシビックテックチーム+奈良先端科学技術大学院大学ユビキタスコンピューティングシステム研究室)
https://yumake-inc.github.io/saku-saku/


身近なところにある隠れた桜スポットの情報を集めてオープンデータにするプロジェクト。データの収集から始めて、集まったデータをオープンデータとして公開し、そのデータをアプリで可視化した。収集ツールはウェブブラウザで動作する位置情報付き写真収集プラットフォーム「レポっと」を活用し、奈良で120件のデータを集めた。また、公開されたオープンデータを可視化するウェブアプリも開発し、オープンソースとして公開した。これにより誰でも自分の地域版のアプリを作成できる。

■Bus TimeTable by Edge Runtime(BuTTER)
(TeamBuTTER)
https://butter.takoyaki3.com/


ウェブ上の好きな場所にバス時刻表を表示できるサービスを開発し、Githubにてオープンソースとして公開した。地図上に表示されたバス停をクリックすると3行のタグが表示され、これをウェブページのHTMLに貼り付けるだけで、ウェブページにバスの時刻表を埋め込める。GTFSを細切れに分割し、コミュニティで運用するストレージに格納することで、APIが無くてもブラウザ上にバスの時刻表を貼り付けられる仕組みを実現した。出発時刻や到着時刻の併記にも対応している。同プロジェクトは「都知事杯Open Data Hackathon」にて技術賞を受賞した。今後は収益化を目的とせず、低コストでのOSS運用を目指している。

■PLATEAUを利用した名古屋市の犯罪マップと類似領域検索
(向直人氏)
https://www.youtube.com/watch?v=MA7faIVBCXk


愛知県における犯罪発生情報のオープンデータPLATEAUを組み合わせることにより、地域の犯罪傾向を把握・予測した。犯罪オープンデータを住所ごとに集計することで、犯罪傾向と建物分布に一定の関係があることを確認した上で、PLATEAUの建物情報と犯罪件数の相関係数を算出したところ、商業施設が多いエリアは車上狙いや自転車盗が多く発生し、住宅が多いエリアでは犯罪が発生しにくいことがわかった。この結果をもとにPLATEAUを利用した名古屋市の犯罪マップを作成した。同マップではマーカーをクリックすると3Dで建物情報が表示され、マーカーをホバーすると犯罪情報が表示される。また、任意の座標をダブルクリックすると類似領域ランキングも表示される。

■石橋供養塔から復元する江戸時代の交通環境~埼玉県坂戸市を事例として~
(石橋を叩いて渡る)
https://memorial.dronerice.jp/


江戸時代に、石橋をかけたことを記念して建立された「石橋供養塔」に彫られた不鮮明な文字を3Dデータをもとに判読解析するとともに、古地図や空中写真を用いて石橋供養塔が建立された当時の交通環境を復元するプロジェクトで、作成した3Dデータはオープンデータとして公開する。今回は石橋供養塔が多い埼玉県坂戸市で調査を実施し、デジタルカメラを用いたSfM-MVS解析により高度な3Dデータを作成して文字解析を行った。交通環境の復元については、迅速図原図と米軍撮影空中写真をもとに昔の石橋供養塔と石橋の位置を確認し、道路拡張による石橋の撤去および供養塔の移動を確認した。

【ビジネス・プロフェッショナル部門・最優秀賞】

■似た境遇のひとり親同士が繋がれ相談し合えるトークアプリ「ペアチル」
(一般社団法人ペアチル 南翔伍氏)
https://parchil.org/


孤独な境遇にいるひとり親が、似た境遇の人と知り合うことができるトークアプリ。自分の境遇を示すタグを付けて共通点が多い人とマッチングして、相談や励まし合いをしやすい環境を提供する。共通点の多さのレコメンドと、詳細条件の検索機能によって似た境遇の人を探しやすく設計されており、審査通過したひとり親だけが使用できるため、安心して使用できる。ダウンロード数は約2200件で、47都道府県すべてのひとり親が利用中。「BabyTech Awards Japan 2023」で保護者支援サービス部門で大賞を受賞したほか、「Digi田甲子園2023」審査委員会審査Top10にランクインするなど、多方面で評価されており、自治体とも連携しながら活動している。

【ビジネス・プロフェッショナル部門・優秀賞】

■メタ観光
(メタ観光推進機構)
https://metatourism.jp/


従来は観光とみなされていなかった「アニメ聖地」「インスタ映え」「地形」など地域の多様な価値を多層レイヤーのオンライン地図に可視化する取り組み。街歩きやオープンデータ、デジタルアーカイブなどの専門家とのシンポジウム開催や、メタ観光に関連した学術研究の助成事業、講演・広報活動、データ整備やワークショップ開催、メタ観光マップ製作などの実践活動などを行っており、モニターツアーや作品展示なども行った。単に地図を作るだけでなくイベントなども開催することで多様性の理解やシビックプライドにつなげていこうと考えている。また、作成したメタ観光マップは観光サイトなどに掲載することで、観光資源の多様化による高付加価値化や、観光資源の増加、観光エリアの拡大、回遊率の改善などの効果が見られている。

■GTFSデータの整備及び地活用促進のためのツール群の開発
(西澤明氏)
https://www.busdata.or.jp/?page_id=589


GTFSデータのバス運行日を効率的に確認できる「GTFS運行日チェッカー」と、経路形状(走行ルート)を簡単にわかりやすく確認できる「GTFS Shapes.txtチェッカー」、路線図を表示してバスの状況を可視化できる「GTFS路線図作成ツール」を開発した。GTFS運行日チェッカーは、GTFSをアップロードすると、「平日」「土休日」などの運行区分ごとに運行日がカレンダー形式で表示される。GTFS Shapes.txtチェッカーは、shape_idごとにルートをマップ上に表示し、座標の順番に従ってルート上をバスのアイコンが走ることで、ルートの情報が正しいかを確認できる。GTFS路線図作成ツールは、路線やバス停の分布を俯瞰することが可能で、複数のGTFSデータを表示できる。

■地方公共交通の運用の効率測定を自動化するMaaS DXサービス
(高知工科大学+シンギュラリティ・ソサエティ)


乗降客数の測定が困難な小規模の市営バスにおいて、GTFSを活用して簡単操作で安価な乗降客数カウントシステムを構築した。ボタンが+と-の2つしかないシンプルなスマートフォンアプリを作成し、時刻と位置情報は自動記録で、乗降客数のみ手動で計測してもらうようにした。計測したデータはクラウドでGTFSデータを統合し、スプレッドシートに自動出力できるようにした。従来は年間に2週間ほど専用のカウント要員を乗せて計測していたが、このシステムを導入したところ、そのような手間は無くなり、計測頻度も大幅に増えた。現在、高知県香南市で稼働中で、2025年からはさらに2つの自治体で採用される予定だ。

■CrossPlatform GISViewer
(ESRIジャパン クロスプラットフォームチャレンジチーム)


国土交通データプラットフォームを対象に、インフラ関連データを中心としたレイヤーをワンソース・マルチユースで利活用できるウェブアプリで、3Dおよび2Dのデータを地図上に描画できる。国土交通データプラットフォームで配信されるデータを複数の地図上で同期させながら表示させることが可能で、自治体オープンデータカタログのサービス一覧の取得や、他機関のデータのアプリ上での重ね合わせも行える。

このほかに、「GTFS特別賞」や「GBFS特別賞」、「BODIK賞(奨励賞)」、「国土交通データプラットフォーム特別賞」、「審査委員長特別賞」、「学生奨励賞」などの表彰も行われた。また、今年度新設された地域拠点に贈られる「地域拠点新人賞」に「広島ブロック」、今年の活動で最も優れた地域拠点に贈られる「ベスト地域拠点賞」には宮城ブロックが選ばれた。なお、ベスト地域拠点賞を受賞した拠点は翌年度のUDCにおいて中間シンポジウムの会場となるため、UDC2024の中間シンポジウムは宮城で開催される予定となった。

「アーバンデータチャレンジ」公式サイト
https://urbandata-challenge.jp/