全国のシビックテックプレーヤーが集結、「CIVIC TECH FORUM 2019」レポート

全国のシビックテックプレーヤーが集結、「CIVIC TECH FORUM 2019」レポート

CTF2019のメイン会場

テクノロジーを使った市民による地域課題解決の取り組みを意味する「シビックテック」をテーマとしたイベント「CIVIC TECH FORUM(CTF) 2019」が6月29日に都内で開催された。

同イベントは、今年で5回目となるカンファレンスで、シビックテックに関わる人たちが全国各地から数多く訪れた。昨年の「CTF 2018」では、全国的に有名な取り組みを行う講演者を招いて話を聞くという従来のスタイルをやめて、全国で活動するシビックテックプレイヤー1人1人が短い講演を行い、参加者同士で活動の共有とネットワーキング強化を行うイベントへと変わった。今年もそのスタイルを引き継ぎ、「集え、全国のシビックテックプレイヤー!Vol.2」と題して、全国で活動するシビックテックプレイヤーが各地のさまざまな活動を共有した。

なお、同イベントは今年から、2019年5月に設立した一般社団法人シビックテックジャパンが主催する形となった。同組織の代表理事であり、シビックテックコミュニティ「Code for Kanazawa」の代表理事も務める福島健一郎氏は冒頭の挨拶にて、「シビックテックジャパンを設立した主な理由は、全国各地で活動するシビックテックの組織が横でつながり、場合によっては助け合ったり、各地の共通する課題に一緒に取り組んだりする団体として運営していきたいと考えています。できるだけ多くの運営メンバーに参加していただきたいと思いますし、皆様からの意見を聞きながら活動していきたいと思いますので、ぜひ今後も応援していただければと思います」と呼びかけた。

シビックテックジャパンの代表理事を務める福島健一郎氏

講演は、計48のセッションを「社会課題とシビックテック」「ソーシャルビジネス」「コミュニティとシビックテック」「公共とシビックテック」「シビックテック観」「シビックテックとプロダクト」の6テーマに分けて、2つの会場にて各10分のライトニングトーク形式で発表が行われた。この中から、地理空間情報に関連したセッションを含めて10セッションをピックアップして紹介する。

■シビックパワーバトル・ワークショップ編
スピーカー:シビックパワーアライアンス実行委員会 井上貢 氏

市民による地域の魅力発掘ワークショップ「シビックパワーバトル」について紹介。「シビックパワーバトル」とは、地域の魅力を、オープンデータなどを活用しながら発掘し、魅力発信につなげることを目的として、住民が自らの住む街の魅力をプレゼンでバトルし合う取り組みで、プレーヤーは市民・団体・企業・教育機関が行政と一緒になって参画・共創を行う。他の地域とバトルをすることで交流を深めることにより、自分の街にない魅力の補完や連携・啓発・共感することを目指す。単なる街のプレゼンではなく、行政間の連携による自治体同士の戦いの場であり、オープンデータを活用したエビデンスのあるプロモーションを目指しているため、根拠のない罵り合いなどは行わない。行政と市民団体、企業および市民が協働することで、まちづくりの共創につなげることを狙いとしている。

第1回は2017年9月に都内で開催。その後は2018年3月に千葉市にて、千葉市6区対抗戦、2018年8月には大阪市にて尼崎市、生駒市、京都市左京区、神戸市、枚方市によるバトルが行われた。さらに、全国10都市が参加する「シビックパワーバトル オープンガバメント推進協議会2018」でも採用され、2018年10月に浜松市にて決勝が行われた。このほか、2019年2月には川崎市の南北の地域で対決する「川崎シビックパワーバトル」が開催され、2019年3月には政府CIOポータルの「オープンデータ100」にも認定された。

シビックパワーアライアンス実行委員会の井上貢 氏
■10人の声で政策を動かそう!スマホで出来るロビイング講座
スピーカー:株式会社LobiLobi 廣田達宣 氏

一般市民の声を政策に反映させることを目指したアプリ「issues」について紹介。同アプリは2019年3月にリリースしたアプリで、廣田氏が「issues」のプロトタイプとして行ったいくつかのロビイング活動の経験が反映されている。一例としては、布おむつがよく使われていた時代の名残で、保育園において使用済みの紙おむつが保護者の持ち帰りになることが多い問題について、2018年夏に保育園ママ70人の声を武蔵野市の市議や市長へ届けた。その結果、2019年の春からは2000万円の予算がついて、保育園側で紙おむつを廃棄してほしいという要望が実現した。他にも合計4つの自治体で市民の声を届ける活動を行ったところ、3つが実現した。海外でも同様のサービスが登場しており、「issues」はインターネットの強みを活かして、普通の人の声を政策に反映し、困りごとを解決するためのインフラを構築することを目指している。

LobiLobiの廣田達宣 氏
■子育てを一人にしない!Line botでつなぐ子育ての輪!!
スピーカー:一般社団法人DAKKO 横張寿希 氏

LINEを使って子育ての悩みを打ち明ける子育て相談窓口「子育て相談bot」の構想について紹介。子育て広場(地域子育て支援拠点)での親同士の会話や意見、地域のおすすめスポット、子育て相談員など専門家のアドバイスなどの情報を集約し、チャットボットを使って保護者が自分の子育ての悩みを相談できるようにする。子育て広場に実際に行かなくても、そこで交わされるような会話をLINEで実現可能にする。今後はチャットボットの回答と応答内容を考えるワークショップの開催を予定しており、地域の子育て支援従事者や保育士、保護者と一緒に考えて、シナリオをプログラムに実装していく予定だ。

DAKKOの横張寿希氏
■不審者・治安情報サービス「ガッコム安全ナビ」の取り組み~地域で見守る社会を目指して~
スピーカー:株式会社ガッコム 山田洋志 氏

地図を使って地域の不審者・治安情報を確認できるサービス「ガッコム安全ナビ」について紹介。不審者や事故、動物出没、窃盗、詐欺、暴行、行方不明、災害など、全国の自治体がウェブサイトやメーリングリストなどで発信している情報を独自の収集技術を使って集約し、さらに一般ユーザーからの看板、落書き、不安な場所に関する情報も追加し、現在は約30万件の情報を掲載している。メーリングリストなどの情報からアバターを自動的に生成し、地図上に表示するとともに、統計・グラフ機能、自宅周辺の情報を登録した条件に基づいてプッシュ通知する機能なども搭載している。

開発する上で苦労したのは、自治体ごとに情報のフォーマットが統一されておらず、情報の粒度や表現方法が異なること。また、安全意識の高い地域ほど配信される事件が増えてしまい、問題が多いように見えてしまう点も課題となっている。さらに、アバターや場所の表現方法についても、個人情報に絡んでくるため、拡大したときに一部の情報が非表示になるように工夫をした。

「ガッコム安全ナビ」は現在、iOSアプリを提供しており、間もなくAndroid版もリリース予定。今後はユーザーを増やすとともに、警察や自治体と連携してフォーマットの違いを解消したり、学校・園やPTAと連携したり、安全データの統計分析を行うことで不審者の予測を行うなど、さまざまな取り組みを行っていく予定だ。

ガッコムの山田洋志氏
■障がい・難病当事者とご家族を支援するプラットフォーム「イースマイリー」について
スピーカー:株式会社イースマイリー 矢澤修 氏

障がいや難病のある当事者や、その家族による、日頃の生活の工夫や体験などの情報を集めるオンラインコミュニティ「イースマイリー」を2019年1月に提供開始。たとえば「飲み込みにくくなったときの工夫は?」といった情報に対して、「とろみ付けをしています」「きざみ食でもおいしさを追求しています」といったノウハウや経験を回答して、それに対して「いいね」といった評価を付けることができる。

コミュニティの質を担保するための工夫としては、クエスチョン(質問)をユーザー自らは作成不可にして、当事者や家族からの要望を受けた上で、管理側で質問コンテンツを生成している。アンサー(回答)についても、内容を確認してからコミュニティに公開している。これにより、同じようなクエスチョンの乱立を防ぎ、アンサーを1カ所に集めることができる。また、不確実な情報やデマ情報の共有を防止したり、不適切な個人情報や薬事情報の共有を防止したりすることもできる。収録している情報は、疾患名・病型、性別・年齢、居住している都道府県、フリーキーワードなどで検索して探せる。

現在、障がいを持つ人から話を聞いたり、質問したりできる新サービスとして、オンライン座談会のライブ配信サービスをトライアルで開始している。座談会は3~5名程度で実施し、1つのテーマについて30分~1時間程度で定期開催することを検討している。会の様子はライブ配信システムを使ってリアルタイムに配信し、チャットで質問も受け付ける。座談会終了後は内容をまとめてアーカイブ化し、コミュニティで閲覧できるようにする。

イースマイリーの矢澤修氏
■標準的バス情報フォーマット~国を巻き込み広がったプロセスと今後の展開~
スピーカー:株式会社トラフィックブレイン 太田恒平 氏

2017年3月に国土交通省が制定した「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)」について紹介。同フォーマットが制定されたことを契機にバスオープンデータが広がっており、2019年6月には125社がGTFS-JPによる公共交通オープンデータを公開している。とくに岡山県では大手バス会社のデータがすべてオープンになっており、西日本豪雨の発生後は、地元交通NPOの要請を受けて、リアルタイムのバスロケマップを短期間で開発することができた。このような取り組みは群馬県や富山県、佐賀県などでも進んでおり、東京都についても、従来は有償で独自形式だった都バス時刻表が、今ではGTFS-JP形式でオープンになっている。

このようにGTFS-JP形式で時刻表データを公開することで、乗換検索のほかにもサイネージやバスロケマップ、ダイヤ改善などさまざまな用途に利用できる。GTFS-JP形式のデータを作成するための高機能なツールも無償提供されているため、バス会社自らがデータを作ることができる。太田氏はこのGTFS-JPの普及を図ることを目的とした組織「標準的なバス情報フォーマット広め隊」を通じて、各地で勉強会などを開催して支援を続けている。

今後はデジタルだけでなく、紙媒体などアナログについても取り組んでいきたいと考えている。データを活用することで個々人に合わせた時刻表などを簡単に作ることが可能となり、出力した紙は、回覧板などで回したり、公共施設で掲示したりと、さまざまな使い方が可能となる。また、国交省への申請についても、電子化の推進に取り組んでいく方針だ。

トラフィックブレインの太田恒平氏
■ソウハツする「遊び場」としての「VIRTUAL SHIZUOKA」
スピーカー:静岡県庁 杉本直也 氏

静岡県は、災害に備えて3次元点群データを収集・蓄積し、3次元点群データのオープンデータサイト「PointCloud DataBase(PCDB)」として全国に先駆けて公開している。この中には、県道約1000kmのデータのほか、浜松城や韮山反射炉、大日本報徳社などの文化財施設のデータも含まれており、VRで施設の中に入って内部を見ることもできる。また、ダイナミック基盤株式会社と連携して、道路の点群データからダイナミックマップを作製し、自動運転の実証実験なども行っている。

将来、MaaSにより道路やまちづくりの考え方が変わってくると、まちの再デザインをする必要が生じるため、そのときに3次元点群データがあれば、これを使ってリアルな疑似体験が可能となり、まちづくりの合意形成や意思決定に有効であると考えている。また、貴重な建築物を解体前にスキャンしておくなど、現在の街並みを記録して残すのにも有効となる。杉本氏は最後に、「3次元データの空間を、次世代の子どもたちに、自由に使ってもいい遊び場として提供していくのが自分たちの世代の使命です」と語った。

静岡県庁の杉本直也氏
■みんなでつくる“ゆきみらい”雪に特化したシビックテックコミュニティを立ち上げました
スピーカー:Code for Snow 澤田学 氏

雪国の振興と雪氷学分野および雪工学分野の普及を目指して活動するシビックテック組織「Code for Snow」を今年の1月に設立した。活動範囲は日本の降雪地帯全域で、雪問題は北の地域に偏りがちだが、日本全国の課題として考えていく方針。目標としては、一般人と民間会社、行政、道路管理者などを結びつけて、明るく楽しく快適な雪国ライフの実現を目指していく。活動方針としては、「雪国の魅力の情報発信」、「雪国特有の地域課題解決」、「雪氷学・雪工学分野のより一層の普及・促進」を3本の柱として活動しており、現在は月1回の定例会をZoomオンラインで行っている。今後の構想としては、雪の情報や悩み事について質問したり、情報交換したりできるLINEチャットボットや、冬道を安全に走る支援アプリ、雪国での防災支援アプリなどの開発を検討している。

Code for Snowの澤田学氏
■石巻バリアフリーマップ
スピーカー:一般社団法人イトナブ石巻 菅原洋介 氏

宮城県石巻市では、2018年に「石巻バリアフリートイレマップ」の冊子が発行されたが、紙ベースで伝えられる情報には限界があるため、車椅子ユーザーである菅原氏は自らこれを「石巻バリアフリーマップ」としてウェブ化する取り組みを始めた。車椅子には多目的トイレは規格が決まっていないため、トイレの入口までの廊下が狭く車椅子が通れないなど、実際には車椅子の人が使用できない多目的トイレも存在する。

そこで役に立つのが、“IT”と“障がい者の視点”。冊子をウェブ化することで、より多くの障がい者が欲しい情報を入手できるようになる。個々人が写真などを見て利用できるかどうかを判断可能となり、新しい情報も随時追加できる。さらに、スマホに対応することにより、情報を携帯することも可能となる。“障がい者の視点”としては、障がい者が本当に必要とする情報をよくわかっているからこそ、それに合わせたUIをデザインすることが可能となる。「石巻バリアフリーマップ」では、障がい者に活用してもらえるサイト作りを進めることにより、障がい者が自信を持って外に出られるようにすることを目指している。同サイトは年内公開を目指して推進しており、このモデルケースをほかの都市にも広めていきたいと考えている。

イトナブ石巻の菅原洋介氏
■シビックテックと持続可能性について
スピーカー:一般社団法人コード・フォー・カナザワ(Code for Kanazawa)/CIVIC TECH JAPAN 福島健一郎 氏

シビックテックにおける人の行動の価値観についてさまざまな考察を発表。人のモチベーションの源は「貨幣」または「非貨幣」であり、貨幣はサービス交換の信用財としては便利である一方、お金を持たない人がサービスを受けられない社会でいいかというと、必ずしもそうではない。自分が将来受けるべきサービスをしっかりと受けるためには、今自分ができることをしてあげることが大切であり、それによって結局最後は自分に戻ってくる。たとえば高齢者のために何かしてあげることは、自分が将来してもらいたいことであり、そのような活動は、たとえお金を貰えなくてもやる価値があり、貨幣ではないモチベーションとなる。テクノロジーの進化により、市民の力を少しずつ集めて成果を成し遂げられるようになったこの時代、シビックテックは非貨幣のモチベーションを発揮しやすい。社会は非貨幣と貨幣の両輪で回っていることを踏まえつつ、シビックテックコミュニティは非貨幣の活動を否定せず、自信を持って取り組んでいきたいと考えている。

Code for Kanazawaが開発し、無償で公開しているアプリ「5374(ゴミナシ).jp」

48のセッションが終わったあとは、参加者自身がテーマを出し合い、そのテーマについて会議を行う「アンカンファレンス」が行われた。テーマとしては、「シビックテックのしきい値を低くするには?」「雪国の観光」「オープンデータ活用を学ぶ環境」「アイデアとテクノロジーのマッチング」「交通データの活用」「自治体職員にできること」「大阪万博2025とシビックテック」「懇親会で色々な人と出会い、話すには?」の8つの話題が提案された。参加者は自分の興味のあるテーマを選び、各テーブルに分かれて議論が行われた。

セッションごとにグラフィックレコーディングが行われ、会場に貼り出された
アンカンファレンスの様子

地域課題解決のさまざまな取り組みの事例が数多く紹介され、各地のシビックテックプレーヤーの交流が促進されたこの「CIVIC TECH FORUM 2019」、ここで生まれた参加者同士のつながりの中から今後、どのような新しい活動が生まれるのか注目される。

「CIVIC TECH FORUM 2019」公式サイト
https://2019.civictechforum.jp/