公共データの活用で地域課題を解決、「アーバンデータチャレンジ2019」キックオフ・イベント開催

公共データの活用で地域課題を解決、「アーバンデータチャレンジ2019」キックオフ・イベント開催

会場となった東京大学駒場第IIキャンパスのコンベンションホール

地域が抱えるさまざまな課題の解決を目的に、イベントやコンテストを通じてオープンデータやその活用ツール、アイデアなどの創出に取り組む「アーバンデータチャレンジ2019(UDC2019)」のキックオフイベントが7月1日、東京大学駒場第2キャンパスにて開催された。

2013年度に始まったUDCは、社会インフラのデータに関する情報の流通環境を整備することを目的とした組織「社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)」および公益社団法人土木学会、東京大学生産技術研究所、東京大学空間情報科学研究センターが主催している。今回のシンポジウムでは、同プロジェクトの全国各地の拠点で活動する自治体関係者やエンジニア、研究者、プランナー、NGO関係者など幅広い人々が集まった。

実行委員長の関本義秀氏
■コンテストは分野別の10部門を用意、重点分野は「道路・交通」と「生活・文化・地域アーカイブ」

実行委員長の関本義秀氏(東京大学生産技術研究所准教授)は冒頭の挨拶において、UDCのこれまでの歩みと、今年度の変更点について説明した。UDCの地域拠点は、全国展開をスタートした2014年には10拠点だったのが年々増えていき、2018年度では49拠点となった。作品応募数についても、2013年では75作品だったのが、2018年度には200作品と増えている。

 

UDCの6年間の歩み

 

このように発展してきたUDCは本年度から新たな段階に入り、今後2023年度までの5年間をセカンドステージとして位置付けている。従来のUDCから変更する点としては、これまではコンテストの作品募集について、「アプリケーション」「データ」「アクティビティ」「アイデア」とジャンル別に部門を分けていたのを、今年度からは「道路・交通」「河川・港湾・上下水道」「住宅・土地・公園・公共施設」「まちづくり・都市計画」「農業・林業・漁業」「産業・観光」「医療・健康」「生活・文化・地域アーカイブ」「教育・政治」「防犯・防災」と、分野別に10の部門に分けて設置する。

 

2018年度の受賞作品

さらに、各分野や業界との連携も図っていく予定で、概ね2年ごとに重点分野を変えていくことになった。2019年度は「道路・交通」「生活・文化・地域アーカイブ」の2つを重点分野とする。

「道路・交通」分野の取り組みとしては、昨年に引き続き、データやICTを活用してインフラ管理者や利用者が抱える課題を解決するアプリやアイデアを募集する「インフラデータチャレンジ2019」と共催して連携を深める。コンテスト応募のために利用可能なデータをUDCのウェブサイトやG空間情報センターを通じて提供予定で、UDCと土木学会との連携によりイベントなども実施する予定だ。

「生活・文化・地域アーカイブ」分野については、インターネット上でセミナーを実施する“ウェビナー”による話題提供を7月上旬よりスタートする。また、UDCにデータ提供・支援拠点として参加している国立国会図書館との連携も深めていく予定だ。

もうひとつの変更点としては、新たに情報発信をウェブ上で定期的に実施する「UDCラボ」を設置する。同サイトでは、UDCに関する情報やスマートシティ、市のデジタル戦略などを発信していく予定で、UDCのメンターや実行委員メンバーからも記事を募る。また、過去の受賞作品や応募作品にもフォーカスする予定だ。

3つめの変更点は、各地域の大学との連携を深めることで、地域拠点コーディネーターが所属する大学などを中心に始める予定。学生やゼミ単位での地域拠点活動やコンテスト参加を積極的に歓迎する。

4つめの変更点は、地域拠点賞の評価を従来よりもきめ細かくすることで、これまでは「多機関連携の取組状況」「イベント開催数」「コンテスト応募数」「コンテスト優秀作品数」で評価していたが、今年度からは「地域展開の取組状況」と「活動における創意工夫」も評価に入れる予定としている。

5つめの変更点としては、コンテスト応募やイベント開催を支援するUDCのメンターと地域コーディネーターのコミュニケーションの機会を増やす取り組みで、今年度は地域拠点ごとに1人のメンターが担当するのではなく、地方単位から複数人によるメンター制度を実施する。キックオフ後や中間シンポジウム前、応募締切前などの節目にメンターと地域コーディネーターがオンラインミーティングを実施しやすいようにオンラインミーティング環境(Zoom有料版)も提供する。

6つめの変更点は、デジタルスマートシティ関連の新たな部門を立ち上げること。東京大学生産技術研究所では、2019年度内にデジタルスマートシティに関連した社会連携研究部門を設置する予定で、同プロジェクトと連携して、各地域におけるデジタル化をサポートする。デジタル化した地域では、UDCにおいても多くの応募者が作品を作れるように使いやすいデータの形を目指している。

 

2019年度の拠点
■コンテスト開催に向けて各地でイベントなど実施、11月に名古屋で中間シンポジウムを開催

関本氏の挨拶に続いて、今年の重点分野である「道路・交通」「生活・文化・地域アーカイブ」の2分野に関連した講演が行われた。

【講演1】「i-Constructionの取組とデータチャレンジへの期待」
スピーカー:国土交通省大臣官房技術調査課・建設生産性向上推進官・廣瀬健二郎 氏

建設現場の生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを紹介。3年以内に、橋やトンネル、ダムなどの公共工事の現場において測量にドローンなどを投入し、3Dデータの活用など新たな建設手法を導入し、全国の建設現場を魅力ある現場に改善することを目標としている。

国交省の廣瀬健二郎氏

 

【講演2】「デジタルアーカイブの広がりとジャパンサーチ(試験版)公開(仮)」
スピーカー:国立国会図書館電子情報部電子情報流通課・奥田倫子 氏

UDCのデータ提供・支援拠点である国立国会図書館の取り組みを紹介。さまざまな分野のデジタルアーカイブと連携し、日本が保有する多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索できる国の分野横断統合ポータル「ジャパンサーチ(試験版)」を2019年2月に公開した。

ジャパンサーチ(試験版)

 

【講演3】「富士宮プロジェクト:写真を媒介として認知症の高齢者を含む多世代の交流の場を作り出す取組み」
スピーカー:一般社団法人認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)共同代表理事・岡田誠 氏

多様な人々が参画する地域コミュニティ醸成モデルとして、写真を媒介として交流の場を作り出す「富士宮プロジェクト」に取り組んでいる。富士宮駅前通り商店街のイベント「十六市」では高校生に写真を使ったプロジェクト企画を依頼した。このイベントでは、高校生が写真を見ながらさまざまな世代の来場者と話し、環境の変化や歴史を素材としてコミュニケーションを図った。

写真を使ったプロジェクト企画を高校生に依頼

 

第2部では、UDC2018においてベスト地域拠点賞を受賞した愛知ブロックや岡山ブロックをはじめ、各地域拠点によるこれまでの活動内容と2019年度の取り組みの紹介が行われた。また、UDC2019と連携予定の活動として、「Linked Open Data Challenge 2019: LODチャレンジ2019」と「20万分の1日本シームレス地質図V2」の取り組みについて紹介が行われた。

 

愛知ブロックの発表。今年度は障がい者支援を目的としたサービスを開発するハッカソンや、自治体オープンデータ活用のためのワークショップなどを開催予定
岡山ブロックの発表。交通・まちづくり・観光・地域情報のアーカイブを通じてデータを作る体験を広める

 

キックオフを終えた同プロジェクトは今後、今年度末にかけてコンテストの開催に向けてさまざまなシンポジウムやワークショップなどの取り組みを全国各地の拠点で実施する予定で、11月には名古屋において中間シンポジウムの開催を予定している。その後、2020年1月末頃にかけてコンテストの作品募集が行われ、年度末のファイナルステージにて審査結果が発表される予定だ。

アーバンデータチャレンジ
http://urbandata-challenge.jp/