地図に関する国際会議「ICC 2019 Tokyo」が日本科学未来館などで開催

地図に関する国際会議「ICC 2019 Tokyo」が日本科学未来館などで開催

地理空間情報に関する国際会議「国際地図学会議(International Cartgraphic Conference 2019:ICC2019)が7月15日から20日かけて、東京・お台場の日本科学未来館や東京国際交流館プラザ平成などで開催された。

同会議は、国際地図学協会(ICA)が2年ごとに開催する国際会議で、第1回は1962年に開催され、今年で29回目を迎える。同会議の日本での開催は、1980年に開催された第6回の東京大会以来、2回目で、39年ぶりとなる。ICC2019のメインテーマは、「地図づくりを、誰にもどんな事にも!」で、アートと地図、アトラス、地図遺産、子どもと地図、災害地図、地図認知、地図学教育、空間分析、地図史、位置情報サービス、地図デザイン、投影法、山岳地図、オープンソース GIS、ビジュアライゼーションなど、さまざまな課題についてセッションが行われた。

日本科学未来館
地図に関するさまざまなセッションが開催

本記事では、会期中に行われた4つの基調講演のうち、OpenStreetMap(OSM)の創始者でありTomTom副社長であるスティーブ・コースト氏の講演と、MapBoxのCEOを務めるエリック・ガンダーセン氏の講演を中心にレポートする。

■OSM創始者のスティーブ・コースト氏が登壇

スティーブ・コースト氏は17日の基調講演に登壇し、自身が2004年から始めたOSMのプロジェクトについて振り返った。コースト氏は当時、政府などが保有するベクトルの地図データを入手できなかったことがきっかけでOSMのプロジェクトを始めたという。「地図はその活用の仕方によっては、世界最高のものは必要ありません。すべての道路を掲載する必要はなく、必要なのは“ある程度”の品質だけです。時間の経過とともにOSMの品質はどんどん向上しており、現在では多くのユーザーが参加し、世界中で改善を続けています」(コースト氏)

スティーブ・コースト氏

OSMが始まったときはデータは何もなく、最初は海岸線と道路を描くところから始めなければならなかった。それが今ではデータ量が劇的に増加し、都市全体の変化を迅速に地図に反映させることができるようになった。

コースト氏はOSMを使う理由について、「従来の地図は基本的に有料でした。また、価格が無料のデータであっても、オープンではないものもあります。それは正しくありません。なぜなら地図は本質的に変化の反映が現実よりも遅く、なにかをマッピングしても、すぐに状況が変わるからです。そこで、私はウィキペディアで行っているような取り組みを地図でもできないかと考えました。それはとてもいいアイデアで、楽しいものだったのです」と語った。

OSMが始まった当時、参加者は測量士やGISの専門家ではなく、マッピングを楽しみたいボランティアの一般市民だった。マッパーがやりたいことは「美しい地図をつくり、それを無料で配布すること」であり、コースト氏はその一例として、ICCの会場である日本科学未来館周辺のOSMの地図を見せて、木の1本1本の位置が詳細に地図に描かれていることを紹介した。

会場周辺のOSMの地図

「都市によっては、木の位置だけでなく、その種類や樹齢がわかる地図もあります。OSMの画面で『Edit』をクリックすれば、衛星画像の上にベクトルデータが表示されます。これはとても直感的に編集できるインターフェイスであり、これを使って地図を描画し、アップロードすることができます。数百万人がこの作業を行えば、世界中の地図を作ることも可能です」(コースト氏)

コースト氏はこのほかに、米国において国勢調査局が保有する「TIGER」の地図データをOSMへインポートしたことや、日本において「Yahoo! JAPAN」が地図データをOSMへ寄附したことなどを紹介し、世界各国において、さまざまな形で地図データが整備されていることを紹介した。また、2005年に米国ニューオリンズで発生したハリケーン・カトリーナによる被害において、OSMによって被害状況がわかる地図が迅速に作られ、それ以来、大災害のあとに人々がOSMを利用するようになったことなども紹介した。

コースト氏は最後に、自身の著書である「The Book of OSM」を紹介した。「この本は、OSMプロジェクトに参加している15人の人たちにインタビューし、プロジェクトに参加した理由や、今後の方針などについて聞きました。彼らはOSMプロジェクトの初期の頃から関わってきた重要な人物です。技術的なことが書かれた本ではなく、OSMに関する歴史が書かれた楽しい本です。ぜひ読んでみてください」と締めくくった。

■日本でビジネスを開始したMapbox社のCEOが登場

エリック・ガンダーセン氏は、最初にマッピングの重要性について語り、自身がMapboxを立ち上げた10年前の当時を振り返った。

「マッピングの分野で働くことは非常にエキサイティングであり、人々の行動を大きく変えることにつながります。私たちは地図を常に毎日使っています。地図を使えば、朝起きて天気をチェックしたり、荷物を追跡したりと色々なことができるし、大量のデータを処理し、分析することもできます。私たちは10年前、インタラクティブな地図を作ろうとしていました。10年前には非常に高価なソフトウェアで行っていたことが、現在ではさまざまなオンラインアプリケーションの機能の一部になっており、以前よりもはるかにスマートな方法でインタラクティブなデータを利用できるようになっています」

エリック・ガンダーセン氏

続いてガンダーセン氏は、MapBoxが構築したマッピングプラットフォームについて語った。

「MapBoxは、すべての開発者が位置情報を扱えるようにしたかったのです。私たちはAIを使ってリアルタイムに更新される地図を開発しました。この取り組みを始めた当初、私たちはアプリケーション開発のためのツールに苛立ち、レンダリング速度に苛立ち、データへのアクセスの難しさに苛立っていました。そこで、自分たちが必要とするツールを作り始めたのです。今ではMapboxで構築しているコアコンポーネントのいくつかを利用することで、素晴らしいアプリケーションを構築できます。また、UberはMapboxの顧客であるだけでなく、協力者でもあります。Uberの開発者がGithub上のMapboxの開発者と改善のために取り組んでおり、これはとても重要で反復的なコラボレーションであると言えます」

ガンダーセン氏は、同じ日の午前中に都内で開催していた「Softbank World」にて登壇したことについて触れ、Mapboxが日本でビジネスを開始したことについて語った。

「Mapboxは日本で開発基盤の提供を開始しました。私たちはここ東京に小さな本社を設立し、そのコミュニティの一員となることを心から楽しみにしています。当社はベクトルタイルからビッグデータに至るまで、さまざまなことについて深く理解している技術者を保有しています。ここにいる開発者のみなさんには、日本の企業がマッピングをより有効に活用できるように支援してほしいと願っています。提携したいと考えている企業はたくさんあります。私たちは顧客から多くの開発の要望を受けており、アプリケーションの構築を支援するパートナーを探しています。多くの方とパートナーになって、より良いビジネスを共に築いていけることを願っています」

続いて、ゼンリンとの提携や、OpenStreetMap(OSM)との関わりについても語った。

「私たちは日本において強力なプラットフォームになるために、ゼンリンと提携して彼らのデータを使用します。ゼンリンは日本において地図の中心的な役割を果たしており、すばらしいチームだと思います。ゼンリンでは数千人の調査員が調査を行っていますが、彼らが効率的に作業できるように、より早く変化を特定できるようにしたいと考えています。ゼンリンと緊密に協力し、私たちのセンサーデータを使って、よりスマートな道路ネットワークを開発していく方針です。一方で、Mapboxは今後もオープンデータコミュニティへの投資を続けていく方針です。Mapboxは日本のOSMコミュニティの強力なパートナーであり、支援者になることを、この場にいる全員に約束したいと思います」

建設機械メーカーのコマツと提携

ガンダーセン氏はこのほか、ヤフーやコマツとの提携についても紹介した上で、同社が提供しているARナビゲーション開発キット「Vision SDK」などの話題にも触れて、今後もより多くの投資を推進していくと語った。

■会場間を走るシャトルバスの位置を地図上にリアルタイム表示

このほかICC2019では、さまざまなジャンルの研究発表や討論、ワークショップや見学会、市民公開講座、ポスターセッションなどが開催された。

ポスターセッション

会場は日本科学未来館や東京国際交流館プラザ平成のほかに、東京都立産業技術研究センターなどいくつかの会場に分かれて行われた。さらにテレコムセンタービルでは「国際地図展」や「バーバラ・ペチェニク子ども地図展」も開催された。また、ICCでは恒例となっているオリエンテーリングも木場公園にて開催され、街中でナビゲーションゲームを楽しめるアプリ「NaviTabi」を使って行われた。

国際地図展

東京都立産業技術研究センターでは、さまざまな企業による地理空間情報関連の企画展示も行われた。準天頂衛星「みちびき」に対応した機器を紹介するコーナーでは、ICC2019の会場間を移動するシャトルバスにGNSSトラッカーを搭載し、軌跡をディスプレイ上にリアルタイムに表示するデモを行っていた。

搭載されるGNSSトラッカーはサブメータ級測位に対応した製品のほか、衛星利用推進センター(SPAC)が提供する、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)のL6信号を変換して既存のRTK受信機で高精度測位を実現する技術を活用したものの2種類を搭載していた。こちらには、u-blox製の最新チップ「F9P」を採用したGNSSトラッカーを使用した。

シャトルバスの位置をリアルタイムに表示
シャトルバス上部にGNSSアンテナを設置

また、立体模型を提供するニシムラ精密地形模型のブースでは、関ヶ原の戦いをシミュレーションした地形模型のプロジェクションマッピングを展示し、来場者の注目を集めていた。

関ヶ原の戦いのプロジェクションマッピング
 

ICC 2019 Tokyo
http://icc2019.org/