「国連ベクトルタイルツールキット」で各国の地図配信を支援、国土地理院 藤村英範氏によるトークセッション開催(「mapbox/OpenStreetMap meetup」第4回レポート)

「国連ベクトルタイルツールキット」で各国の地図配信を支援、国土地理院 藤村英範氏によるトークセッション開催(「mapbox/OpenStreetMap meetup」第4回レポート)

司会を務めた青山学院大学の古橋大地教授

ウェブ地図サービスのMapboxと、フリーでオープンな地理空間情報を市民の手によって作る世界的プロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」のユーザーコミュニティとの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」の第4回が5日、「WeWork 日比谷パークフロント」にて開催された。

同イベントは、Mapboxの日本法人(mapbox.jp)が青山学院大学の古橋研究室および NPO法人CrisisMappers Japan、OSGeo.JP、OpenStreetMap Foundation Japan(OSMFJ)と協力して開催するもので、4回目の開催となる今回は、国土地理院の藤村英範氏が登壇し、国連や国土地理院が採用したMapboxのベクトルタイル技術について語った。

国土地理院の藤村英範氏

藤村氏は、国土地理院が保有する地理空間情報をインターネットで広く配信するための取り組みを長年続けており、2014年に始まった同院のベクトルタイル配信実験にも携わっている。藤村氏はその技術を活かして、2017年~2019年までの2年半、国連において地図コンテンツの配信を手がける国連地理空間情報課(UNGIS)へ出向し、地図タイルのベクトル化など、国連内部での地理空間情報のさまざまな技術的改良に取り組んだ。

このような活動の中で、同氏が持つ技術をさらに広く伝えるために立ち上げたのが、「国連ベクトルタイルツールキット(United Nations Vector Tile Toolkit:UNVT)」のプロジェクトだ。

「私が出向している間に地図配信のベクトル化を推し進めても、また私が日本に戻ってしまったら、その技術はなかなか根付きません。そこで、自分が持つ技術をオープンソースソフトウェア(OSS)のパッケージとしてまとめることで、継続的なパートナーシップを作っていこうと思いました。このUNVTを使うことにより、ベクトルタイルを生成し、ホスティングし、スタイリングして、サイズを最適化することが手軽にできるようになります」(藤村氏)

UNVTは、ベクトルタイルを作成するためのコマンドラインツール「Tippecanoe」、ホスティングするための「Node.js」、ベクトルタイルの最適化を行うツール「vt-optimiser」などで構成されており、スタイリングは「HOCON(Human-Optimized Config Object Notation)」フォーマットで行う。

国連ベクトルタイルツールキットの概要(資料提供:藤村英範氏)

UNVTを使って地図配信のベクトル化に取り組んでいる組織は、現在のところ国連グローバルサービスセンター(UNGSC)と日本の国土地理院の2組織となる。藤村氏は、UNGSCが手がける国連のサイトにおいて、地図コンテンツをラスター地図からベクトル地図へと移行させた例を見せた。

UNVTを使ってベクトル化した国連のサイト(資料提供:藤村英範氏)

「ベクトル化を行う前は反応速度が遅く、大縮尺の地図は地球規模でカバーできていませんでしたが、OSMのデータをもとにベクトルタイルを作成したことで、建物の形がわかるレベルの詳細図を地球規模でカバーすることが可能となりました。反応速度もビデオゲーム並みに速くなっています。この全世界のデータを作成するのに、コンピュータ1台を使って80時間で完了することができました」(藤村氏)

藤村氏はUNVTのプロジェクトをさまざまなパートナーと連携しながら推進しており、現在のところMapboxや国連地理空間情報課をはじめ、OSGeo日本支部や株式会社マップル・オン、国立天文台、青山学院大学地球社会共生学部など計10組織と連携しながら、各国の国家地図作成機関へと広げていきたいと考えている。

■地理院地図Vectorは3月までに全国エリアへと拡大

一方、国土地理院においても、ウェブ地図サービス「地理院地図」をUNVTでベクトル化した「地理院地図Vector」を、2019年から試験公開を始めている。地理院地図Vectorは数値地図(国土基本情報)をベクトルタイルに変換して配信するもので、現在は関東エリアに限定して提供しており、今年3月までには全国のデータを公開する予定だ。

地理院地図Vector(出典:国土地理院ウェブサイト)

地理院地図Vectorのスタイリングは、「Mapbox Style Specification」をベースに、建物のハッチング(複数の平行線を描くこと)を表現するための拡張を行い、ラスター版の地理院タイルのスタイルを参考にデザインしている。このとき、立体交差の簡素化や中央分離帯を非表示させることで、初期表示が遅くならないように工夫した。ほかにも、水域ポリゴンが2重になってしまったり、鉄道の旗竿表示がおかしくなったりと、さまざまな課題があり、現在、日々調査を進めながら改良を重ねている。

なお、スタイリングについては、現在のところはJSONでテキストを使って定義付けているが、Mapboxが提供しているエディタ「Mapbox Studio」が優れているため、UNVTのコミュニティでは、これを使って地理院地図 Vector で提供実験に供されているベクトルタイルをスタイリングする方法も試行している。

mapbpx studioを使って地理院地図をスタイリング(資料提供:藤村英範氏)

■Raspberry PiにUNVTを搭載し各国へ配布

藤村氏はUNVTを各国の地図作成機関へと広げていくために、UNVTをシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」に搭載して配布する取り組みも開始する。

UNVTをインストールしたRaspberry Piを配布

「UNVTのツールをただGitHubに置いても、それを実際に使うとなると難しいので、ほかのウェブ地図の中の人を巻き込んでいかないと持続できません。LinuxやDocker、UNVTのツール群、そして変換元の地図データを収めたmicroSDカードをRaspberry Piに挿すことで、これ1台あればすぐにUNVTを使ってベクトルタイルを作成し、配信できる仕組みを提供します」(藤村氏)

藤村氏はこのデモ機を40台ほど作り、各国の国家地図作成機関に配布してコミュニティを広げていく方針で、2月25日~26日に東京で開催予定の「国連GGIM防災会議2020」においてアピールする予定だ。同会議は、災害のために地理空間情報をどのように使うかを話し合う国際会議で、各国の国家地図作成機関が日本を訪れる。

「国連GGIM防災会議2020」が2月25日~26日にに開催

「UNVTの狙いとしては、“地図の多様性をウェブでも守る”ということをすごく大事にしています。紙の地図であれば、注文すれば色々な地図を作成できますが、それをウェブでもきちんと作れるようにする必要があります。このとき、ラスタータイルではデータの容量が大きくなり、動作も遅くなってしまうので、多様な地図を作れて軽快に動作するベクトルタイルを使うことが大事だと考えています。そしてベクトルタイルの普及のために、Mapboxからさまざまな優れた技術がオープンに提供されているのは非常にありがたいと思っています」(藤村氏)

国連ベクトルタイルツールキット(GitHub)
https://github.com/un-vector-tile-toolkit/
国連GGIM防災会議2020
https://ggim-tokyo-2020.github.io/ja/
「mapbox/OpenStreetMap meetup」Peatixのイベント告知ページ
https://mapboxjpmeetup04.peatix.com/
「mapbox/OpenStreetMap meetup」Facebookグループ
https://www.facebook.com/groups/514102766089765/
Mapbox
https://www.mapbox.com/