都市インフラ管理のデータ基盤の構築を目指す「デジタルスマートシティイニシアティブ」キックオフシンポジウムが開催

都市インフラ管理のデータ基盤の構築を目指す「デジタルスマートシティイニシアティブ」キックオフシンポジウムが開催

会場となった生産技術研究所内のコンベンションホール

東京大学生産技術研究所は11月12日、新たな社会連携研究部門「デジタルスマートシティイニシアティブ」の設置にともなうキックオフシンポジウムを、東京大学駒場第Ⅱキャンパス・生産技術研究所内のコンベンションホールにて開催した。

同研究部門は、都市インフラのスマートなオペレーションのための統合的情報基盤の構築を目指して、研究センターの構築やオープンソースをベースにしたツールなどの提供に取り組むもので、ソフトバンク株式会社、パシフィックコンサルタンツグループ株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)などの支援を受けて設置に至った。活動期間は2019年11月から2024年3月までの約4年半を予定している。

シンポジウムの冒頭では、東京大学生産技術研究所副所長の石井和之教授が開始の挨拶として、「デジタル技術を駆使して、都市と市民の暮らしにつなげていくことは極めて重要です。最近はデジタルツインという言葉がありますが、都市をデジタルでシミュレーションすることで人口減少や災害など実世界の現象に備えていくことは今後、非常に重要になります。本日のシンポジウムがデジタルスマートシティの将来について考える機会になれば幸いです」と語った。

石井和之教授

続いて、同研究所の関本義秀准教授が、研究部門の趣旨について説明した。関本氏は、日本でもスマートシティに関する実証実験などが始まっており、そのような取り組みを行った場合は、プロジェクト終了後に地域が自律的かつ持続的にメンテナンスできるデータとして残すことが重要であると語った。その上で、「プラットフォームの話も大事ですが、それだけでなく、交通や建物など分野ごとの課題にもっとフォーカスしていきたいと思います。また、周囲のプラットフォームとつながることも意識しながら、サステナブルな市民協働型のスマートシティの取り組みを工学的に行っていきたいと思います」と語った。

研究部門の設置目的としては、自治体などの経営を情報技術によって透明化・迅速化できるように、研究開発や啓蒙活動を行える次世代スマートシティのための「世界最先端の都市情報基盤研究センター」の構築を目指すほか、そのためのツール提供や効果測定などもおこなう。また、大学だけでなく、テクノロジーによる地域課題解決を目指す「シビックテック」などのネットワークをもとに全国組織化して、地域のデジタルトランスフォーメーション(デジタル技術の浸透により生活やビジネスをより良く変えていくこと)の推進にも取り組んでいく。

関本義秀准教授

具体的な活動としては、研究会や公開シンポジウムを継続的に開催する。5年後の成果イメージとしては、実践的な都市情報の教育・研修用プログラムとセットで常設センターを設置し、ネットワーキング拠点とするほか、自治体で都市のインフラ運営をサポートするためのデータ基盤の運営などを目指す。さらに、全国の自治体が採用可能なオープンソースかつクラウドベースのソフトウェア群を提供することも検討している。

シンポジウムではこのほかに、国土交通省や生産技術研究所をはじめ、支援を行っているソフトバンクやパシフィックコンサルタンツグループ、東京海上日動火災保険、NEXCO東日本などの担当者がスマートシティーの取り組みについて講演した。

国土交通省 大臣官房 技術審議官の東川直正氏は、10月31日に発表した「国土交通データプラットフォーム」について紹介。同プラットフォームは、同省が保有する多くのデータと民間等のデータを連係することにより、デジタルツインによる業務の効率化やスマートシティなどの高度化、産官学によるイノベーションの創出を目指す取り組みで、インフラ分野においては維持管理や防災などに、社会生活においては在宅勤務や観光・レジャー、バリアフリーなどに活用されるほか、防災面でも地震や土砂災害の危険度をシミュレーションし、その結果を踏まえて避難ルートを3D地図上に示すアプリケーションを開発するといった取り組みが期待される。

まずは産官学から幅広く意見を公募し、整備・運用方法の検討を進めるため、産学官による協議会を設置し、静岡県を対象に構築したプロトタイプ版を協議会会員に限定して公開する。このプロトタイプ版には、3次元点群データや地形データ、地質データ、橋梁やトンネル、横断歩道橋、ダムなど施設の諸元・点検データに加えて、企業間取引データや交通人流データなどが含まれており、データの公開方法やデータプラットフォームの利活用方策、インターフェイスの構築方法などについて意見を募集する。

シンポジウムの終了後は懇親会が開催されて、登壇者をはじめ参加者一同が交流し、情報交換を行った。今後は研究会を3カ月に1回程度の頻度で進めて、公開シンポジウムを年に2回程度、研究会のタイミングにあわせて開催する。シンポジウムや研究会で生まれた参加者同士のつながりが今後、どのような成果に結びついていくか注目される。

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