マップボックス・ジャパンとOSMユーザーの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」第11回レポート

マップボックス・ジャパンとOSMユーザーの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」第11回レポート

地図開発プラットフォームを提供するMapboxと、フリーでオープンな地理空間情報を市民の手で作るプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」のコミュニティとの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」の第11回が5月10日、オンラインにて開催された。

同イベントはMapboxの日本法人であるマップボックス・ジャパン合同会社が青山学院大学の古橋研究室とNPO法人CrisisMappers Japan(災害ドローン救援隊DRONEBIRD/JapanFlyingLabs)、OSGeo.JP、OpenStreetMap Foundation Japan(OSMFJ)の協力により開催するもので、11回目となる今回は、2023年2月に位置情報共有サービス「Zenly」がサービスを終えたことを受けて、「#Zenlyの代わりとその未来」と題してリアルタイムの位置情報サービスをテーマにさまざまな講演や議論が行われた。

冒頭ではマップボックス・ジャパンのアンバサダーを務めている青山学院大学の古橋大地教授が挨拶し、「今年の2月にリアルタイム位置情報共有アプリで有名なZenlyが急に終了するというニュースが発表されまして、色々な位置情報共有アプリが出てきている中、新しいリアルタイム位置情報共有の未来について語れる場を設定しました」とイベントの趣旨を語った。

青山学院大学の古橋教授

続いてマップボックス・ジャパンCEOの高田徹氏は、「地図を使ったコミュニケーションというのはとても大事なテーマです。日本はこのようなソーシャルなサービスが違った成長の仕方をする国だと思っていますし、その中でもトッププレーヤーの方々が今日お集まりいただいたということで、私自身も勉強させていただきたいと思います」と挨拶した。

マップボックス・ジャパンの高田氏

■位置情報共有サービスの歴史

位置情報共有サービス各社による発表に先立って、古橋氏はまず位置情報共有の歴史について振り返った。同氏は位置情報の共有機能を持つGPS機能付き携帯電話が初めて登場した2000年頃を“創世記”、Google LatitudeやLINE HERE、Zenlyなどリアルタイム位置情報共有のアプリが登場し始めた2009~2015年頃までを第一次ブームとして、第一次ブームは各社が位置情報を共有することの利便性とプライバシー保護のバランスをいかに取るかを試行錯誤していた時代であると語った。

Zenlyは第一次ブームの後半である2015年、つまりGoogle Latitudeが2013年に終了した後にリリースされたアプリであり、ポップな画面デザインが中高生など若い世代に受け入れられた。古橋氏はZenlyが若者から人気を集めた理由のひとつとして、ユーザー層がGoogleマップやストリートビューのネイティブ世代に世代交代したことを挙げている。

このZenlyの動きを見ながら他社が位置情報共有サービスに取り組み始めたのが2017~2019年頃で、SnapchatのSnapMapやFacebook MessengerのLive Location、Googleマップのリアルタイム位置共有、WhatsAppsのライブロケーション、Appleの「探す(Find My)」などが登場した。古橋氏はこれをリアルタイム位置情報共有の第二次ブームと位置付けている。

第二次ブームの特徴はSNSと位置情報機能を組み合わせている点であり、まずは人とつながり、その上で信頼のおける友人だけに位置情報を共有するという使い方を想定している。あくまでもメインはSNSで、位置情報共有は機能の一部であり、位置情報を共有できる時間も短めに設定されている。

今回Zenlyが終了したことによって、その代替アプリとしてwhooやココイル、NauNau、Locket、Life360、GHOST、友どこBFFなど様々な代替アプリが注目されている。古橋氏は、これらのアプリの特徴として、ワン・イシューでシンプルなUI/UXを採用している点を挙げており、第二次ブームのようにSNSの一機能として提供されるのではなく、単体で提供されている点に注目している。

■常時接続の安心感がコミュニケーションのハードルを下げる

続いて、位置情報共有アプリ「whoo」を提供する株式会社LinQの代表取締役CEOを務める原田豪介氏が「Zenlyの代わりとその未来~なぜ、人はリアルタイム位置情報共有をしたがるのか」と題して発表を行った。whooのユーザーのメイン層は中・高・大の学生であり、グローバル比率も43%と高めで、リリースしてから3カ月で1000万ダウンロードを突破したという。

LinQの原田氏
whoo

原田氏は、位置情報共有サービスに対する人々の印象について、Zenly登場前は“監視ツール”のような怖いイメージがあったのに対して、Zenlyの登場後はUI/UXの力によって“楽しいアプリ”というイメージに変わっていったと見ている。そしてZenlyが終了した今、原田氏は今後に向けてZenlyを上回るUI/UXを作ることを目指している。

位置情報共有サービスの課題としては、SNSの一種であると見られることが多いのにもかかわらず、SNSとしてはFacebookやTikTokなどの人気サービスに比べて圧倒的に規模が足りず広告モデルで展開するのは難しいこと、マップと広告との相性が悪いことなどを挙げて、今後、新しいビジネスモデルを発見することが必要であると語った。

原田氏は、人が位置情報を共有したがる理由は、その行為がコミュニケーションのハードルを下げるからであると考えている。SNSにおいて友達が今何をしているのかわからない状態ではメッセージを送りづらいが、whooのように常に位置情報を共有しているアプリというのは、言わばコンテンツが垂れ流しとなっている状態であり、それが“常時接続の安心感”をもたらしている。友達がどこにいるのかわかることによって、そのときに採るべきコミュニケーションの手段が明確になり、より良いコミュニケーションにつながると考えている。

また、意味もなくLINE通話を接続し続けているティーンエイジャーが多いように、意味もなく友達の行動を見る行為は、友人のありのままの日常の姿を見られるため、脚色されたSNS投稿を見るよりも面白さを感じられる。位置情報の共有は「待ち合わせが便利になる」など合理性が求められがちだが、今後は「楽しい」「面白い」という要素が大事であると原田氏は考えており、whooは楽しさや面白さによって“友達とより仲良くなれる世界”の実現を目指している。

「whooはティーンエイジャーから流行が始まったアプリであり、若い人しか使わないというイメージがありますが、“友達が今どこにいるか気になる”という思いは年齢やジェンダーや国籍を超えたものであり、位置情報を共有することに抵抗のある世代に対してwhooを一般化させるために、時代のトレンドがそちらを向くように仕込んでいくことが大事であると考えています。whooはリアルタイムの位置情報共有を通じて、ありのままで友達とつながって交流し、共感し合うことができる世界を作っていきたいと思っています」(原田氏)

■企業や自治体のイベントなどBtoBで利用される位置情報共有アプリ

続いて、ココイル(COCOIL)を提供する株式会社エレクトロドリームの取締役を務める松本健一郎氏が登場し、古橋氏からの質問を受けながらココイルについて紹介した。ココイルは2014年に提供開始された息の長い位置情報共有アプリで、「サークル」を作って仲間を招待し、位置情報を通じたコミュニケーションを楽しめる。

エレクトロドリームの松本氏
ココイル

サークルとして設定できる人数の上限は10人で、イベントの際に参加者の位置情報を管理するためのBtoBサービスとしても提供しており、その場合はより多くの人数を設定することもできる。なお、一度設定した位置情報の共有は最大12時間まで任意に設定できる。

ココイルは広告を入れておらず、BtoBで収益を上げている点も特徴で、コロナ禍の際は企業や自治体に対してオンラインイベント参加者の位置情報を管理するサービスとして人気を博したという。

多彩なデザインのアバターを設定できることや、Apple Watchにも2015年にいち早く対応するなど、新デバイスへの対応も早いのも特徴となっている。また、ユーザー層は30~50代の男性が多く、イベントやデートの待ち合わせ、複数台でのツーリングやドライブ、フェスやテーマパーク、スノーボードなどイベント中の別行動時などに便利なツールとして利用されている。

■合理性だけでなく楽しさや面白さが大事

続いて、原田氏と松本氏、古橋氏、高田氏の4名に、位置情報共有アプリ「GHOST」を提供する株式会社ベルのMIN氏が加わってディスカッションが行われた。ディスカッションでは、位置情報共有アプリで最もコストがかかるのはサーバー代であり、サーバーコストをいかにペイできるかが課題として指摘された。

一方、高田氏は、位置情報共有は合理性だけでなく、楽しさや面白さも大事であることを原田氏が指摘したことについて共感を表明し、地図には機能以外にも可能性があり、マップボックスでも3D地図に力を入れていることを紹介した上で、地図サービスにおいてブランドや世界観を表現する手段として、今後は3Dなどビジュアル面を工夫することが差別化ポイントになると語った。

その例として、リリースが予定されている位置情報ゲームにマップボックスのプラットフォームが採用されていることを紹介し、「マップボックスの3D地図を使うことにより、複雑な建物にも自由にテクスチャを貼って色々な世界に対応できます。この機能を駆使することでデザイナーやクリエイターが作りたい世界を作れるので、“合理的ではない地図”を作ってほしいと思います」と語った。

原田氏は締めくくりとして、「本気で日本初、世界で使われるアプリを作ろうと思っていて、今後は位置情報の精度向上やアプリの質の向上、新しいビジネスモデルの構築など全方面で取り組んでいきたい」と語った。

松本氏は、「今後もニッチな30~50代のユーザーとか、自治体と組んでシニアの見守りなどに取り組んでいきたい。位置情報共有に抵抗のある世代にアプローチしながら、かつBtoBサービスを拡張していきたい」と語った。

■URL
Mapbox Japan
https://www.mapbox.jp/
mapbox/OpenStreetMap meetup
https://mapboxjpmeetup11.peatix.com/
イベントの動画
https://www.youtube.com/watch?v=mNa0UFKfasM
株式会社LinQ(whoo)
https://www.linq.co.jp/
ココイル
https://cocoil.app/
GHOST
https://ghost.vacations/