OpenStreetMapの年次カンファレンス「State of the Map Japan 2018」が開催

OpenStreetMapの年次カンファレンス「State of the Map Japan 2018」が開催

自由な地理情報データを草の根の力で作る世界的プロジェクト「Open Street Map(OSM)」の年次カンファレンス「State of the Map Japan 2018(SOTMJ2018)」が8月11日、東京都千代田区の千代田区立図書館内の日比谷コンベンションホールにて開催された。

“SotM”は各国のOSMコミュニティが開催している年次イベントで、この日本版であるSotM Japanは、日本でそのOSMの活動を支える法人組織「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)」が主催している。日本では2012年にOSMの国際カンファレンス「State of the Map Tokyo」が開催され、その後、日本版カンファレンスの第1回を2014年12月に東京で、第2回を2015年10月に浜松で、第3回を2016年8月に東京で開催。さらに2017年8月には再び国際カンファレンスが会津若松で開催された。日本版カンファレンスは今回が4回目となる。

OSMは“Wikipediaの地図版”とも言われる世界的プロジェクトで、“マッパー”と呼ばれる草の根の地図製作者が自由に地図データや施設情報を編集できる。こうして作成された地図データは商用・非商用にかかわらず誰でも自由に無償で利用可能で、今ではAppleやFacebookの地図サービスにも活用されている。最近ではJALの機内Wi-Fiサービスで提供されているフライトマップにもOSMデータが使用されるなど、日本での活用事例も増えてきた。

このようなOSMコミュニティの交流の場であるイベント「SOTMJ」には、OSMの活動を支える全国のマッパーをはじめ、OSMのデータを利用してビジネスを展開する企業や開発エンジニア、研究者、地元コミュニティ組織など、さまざまな層が参加している。

今年のテーマは「知のバリアフリー」で、SOTMJとしては初めて図書館が会場となった。基調講演として、図書館や知について活動している有識者が図書館と地図の関係をテーマに語ったほか、OSMマッピングのノウハウや、“マッピングパーティ”と呼ばれるマッピングイベントの開催ノウハウ、各地のOSMコミュニティの動向、OSMデータを扱う上での技術的ノウハウ、OSMFJの活動内容などさまざまな発表が行われた。今回はこの中から、基調講演とスポンサー講演の内容についてレポートする。

会場となった日比谷コンベンションホール

 

【基調講演1】
「知のバリアフリー」に向けて~「地図」と「図書館」の関係を考える~
スピーカー:岡本 真 氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社(ARG), 代表取締役/プロデューサー)

日本全国で文化施設のプロデュースに携わるとともに、総務省情報化アドバイザーとして「ウィキペディアタウン」の普及振興にも努める岡本氏は、「地図と図書館の関係」をテーマに講演を行った。「図書館の“図”とは、もともと地図を意味するもので、地図は図書館の重要な収集対象であり、親和性が高い」と岡本氏。

図書館の役割は大きく分けて収集・保存・整理・提供の4つがあるが、岡本氏はこれら4つに加えて、人と人との交流を呼び起こし、所蔵している書物を使って知識の再創造・再循環を担うことがこれからの図書館が果たしていく役割であると考えている。そのことはARGがプロデュースする図書館でも重視しており、たとえば西ノ島(島根県)の図書館では、開館する前からウィキペディアタウンを開催し、地元の高校生も巻き込みながら、図書館を起点とした新たな知の創造を目指している。

岡本氏は、マッピングパーティーを図書館で開催するなど、OSMコミュニティと図書館はもっと連携するべきではないかと提案する。図書館の側も、古地図を重んじて現用地図の価値を軽んじる傾向があるものの、私たちが必要とする情報にたやすくアクセスできるようにすることも図書館の使命のひとつであり、古地図だけでなく今の地図にアクセスしやすくなる社会を作ることは図書館に課せられた役割であると語る。

「少なくとも図書館の半径2km四方くらいは、OSMの地図に情報を埋め尽くすといった取り組みを進めてもいいと思います。図書館は全国で約3200施設以上あるので、それだけの施設が2km四方の情報を拡充すれば、かなりの情報量になります。そうすれば、図書館周辺の飲食店情報など、図書館利用者にとっても有用な情報を提供することにもなるし、OSMなら図書館自身も地図作りに関わっていくことができます。あまり知られていない史跡など、図書館だからこそアピールしたいものを見せることによって、図書館は地域情報の編纂という社会的なプロセスに参加できます」(岡本氏)

このように図書館との関係を進めれば、OSMコミュニティ側にも、図書館側にもプラスであり、最終的にはOSMの地図データを利用するユーザーも豊かな地図文化が味わえるようになると岡本氏は語った。

ARGの岡本真氏

 

【基調講演2】
「Retroscopeとオープンイノベーション」
スピーカー:松澤 有三 氏(インディゴ株式会社)

Webサイト構築などを手がけるエンジニアの松澤氏は、同氏が開発した表現技法「Retroscope」を紹介した。Retroscopeは、マウスを当てた部分だけが、ライトを当てたように別の地図に切り替わる表現技法で、古地図と現代地図、航空写真と地図などさまざまな地図を組み合わせて使用できる。RetrosopeはオープンソースとしてGitHub上に公開され、現在、Leafletの公式プラグインとして使用可能となっており、国内外でさまざまな開発者に利用されている。

「さまざまな地図がアーカイブされている現在、それぞれの地図を単独で使っていくよりも、地図同士を比較するというやり方が必要です。それには地図を左右に並べたり、部分的にクリップしたり、重ねて透明度を変えたりと、色々な方法があります。私が開発したのは、地図にマスクをかけて、ポインタで指し示したところだけが別の地図に切り替わるという方法です」

このような地図の比較を可能にするためには、重ねる地図がそれぞれきちんと整っていること、比較するための手法・手段が用意されていること、地図を制限なく自由に使えることなどが必要となる。松澤氏は、ふとした思いつきから始まったRetroscopeが実際に形となって広がっていった背景には、オープンデータやオープンソースソフトウェアなど、オープンな環境が整っていたことが大きいと語る。

「私がRetroscopeを開発しようと思ったときは、、すでにオープンデータとしてさまざまなデータが利用可能な状態にあり、そのデータを加工する自由がありました。さらに、オープンソフトソフトウェアであるLeafletは使用・改変・拡張が自由であったため、LeafletのプラグインによってRetroscopeを実現することができました」

松澤氏は最新の活動として、PNGを利用した標高タイルフォーマットである「PNG標高タイル」を、標高データをもとに地形をわかりやすく表現する図法である「CS立体図」に、ブラウザ上で直接生成する技術の開発に取り組んでいる。

「RetrosopeやCS立体図のプロジェクトは、さまざまなデータが公開され、数多くのアプリケーションが数多く提供されていたことにより、応用先が拡大されていきました。内外のさまざまな技術を取り込んだり、アウトプットしたりすることで、最終的には用途が拡大したり、マーケットが広がったりする、これこそまさにオープンイノベーションではないかと私は考えています。将来的には、OSMの各種データに、さらに地形データを加えて、豊かな表現ができればいいなと考えています」(松澤氏)

インディゴの松澤有三氏
Retroscope

 

【スポンサー講演1】
「印刷して配れる給水所マップを作った話」
スピーカー:関 治之 氏(合同会社Georepublic Japan代表社員)

位置情報を使ったシステム開発を手がけるGeorepublic Japanは、OSMのタイルサーバー構築や、OSMを活用したバリアフリーマップの開発、経路探索システムの高速化業務へのOSMデータ活用、OSMネットワークの分析・調査など、OSMをさまざまな用途で活用している。同社の代表を務める関氏は、今回、OSMデータを使って、西日本豪雨の被災地において給水所マップを作成したことを報告した。

関氏は7月に、クライシスマッピング(インターネット上に被災地の情報をリアルタイムで地図上に集約する支援活動)に取り組む人から、尾道の給水所や入浴施設の地図を配りたいという要望があることを知った。

彼らはGoogleマップの「マイマップ」機能を使って情報を集約していたが、すべての人がスマートフォンを見られるわけでもなく、たとえスマートフォンがあったとしても情報が多すぎると見にくい。かといって手書きで地図を作るのも更新が大変であるという課題があった。ITを活用して地域課題の解決を目指す組織「Code for Japan」の代表者でもある関氏は、広島のシビックテックコミュニティ「Code for Hiroshima」とも連携して、Georepublic Japanのスタッフとともにこのような課題の解決に取り組んだ。

具体的には、GoogleマップからKMLファイルを出力し、Leafletで表示した上で、画面にある範囲のピンだけをリスト表示して印刷用に最適化するシステムを1日で完成させた。さらに、見た目や使い勝手を練り上げるためにGitHubで公開し、開発を手伝う仲間を募ったところ、2週間ほどで多くの人が協力してくれたという。

最終的には、地図に表示される範囲にある情報だけに絞って給水所や入浴施設、ランドリーなどが表示され、地図の下には施設情報がわかりやすくリスト表示されるウェブサービス「mapprint」が完成した。しかも地図は、OSMデータをもとに多彩なデザインの配信型背景地図データを提供する株式会社MIERUNEの協力により、白黒で印刷しても見やすい地図デザインに仕上げた。

利用の流れとしては、被災地の情報が集約されたマイマップの情報をKMLで出力し、mapprintに登録した上で、この紙マップ情報をFacebookに投稿する。よく出力されそうなエリアはPDFでダウンロード可能にしたほか、コンビニプリントを使って印刷することもできるようにした。Facebookを見た人はこれらの地図を自由に印刷して配布できる。

紙の地図ならば誰でも簡単に見ることができるし、店などに貼り出しておくこともできる。関氏は今回の取り組みについて、「やはり紙は最強だと思いました。情報は、人に届けるところまできちんと設計することが大事で、僕らは東京にいるので現地では活動できませんが、Code for Hiroshimaのメンバーとの連携により、現地での活動につなげられたことも大きかったと思います」と語る。

mapprintはOSMデータを利用するので、地図を印刷・配布するにあたってライセンス制限もなく、利用料もかからない。また、情報収集はGoogleマップを利用し、配布はmapprintを利用することでチームを分離できるのもmapprintのメリットだという。関氏はこのシステムは観光マップなどにも利用できると考えており、今後、さらに汎用的にしていきたいと語った。

Georepublic Japanの関 治之氏
mapprint

 

【スポンサー講演2】
「Stroly~Platform for designed maps」
スピーカー:明主 那生 氏(株式会社Stroly コミュニケーションデザイナー)

明主氏は、デザインマップに位置情報を付加して、インターネット上で公開できるオンラインプラットフォーム「Stroly」について紹介した。古地図やイラストマップなどをOSMの地図と重ねることにより、現在の地図とデザインマップを切り替えて比較できるほか、スマートフォンの衛星測位機能を使ってデザインマップ上に現在地を表示することもできる。

アプリのダウンロードが不要のブラウザベースのサービスであるStrolyは、ユーザーが自由にさまざまなデザインマップを投稿することが可能で、イラストのアイコンを地図上に並べて、施設情報としてテキストや画像を登録することもできる。

地図の登録は、手持ちのデザインマップをアップロードした上で、地図と対比させながら位置情報を指定する。登録された地図は、QRコードを印刷したポストカードを配布することも可能で、QRコードを読み込むことでウェブブラウザ上で地図を見ることができる。また、iframeでウェブサイト上に地図を埋め込むことも可能だ。

Strolyでは、さまざまな市町村などで公開・配布されている観光地図のパンフレットなどをアーカイブしてオンラインで検索可能にすることを目指している。紙の地図の場合、配布物をどこで誰が利用しているかを検証することは難しいが、Storyでは利用者の行動履歴や利用された場所などを確認することも可能で、有料で分析用のユーザー行動データを利用できる。また、Strolyを活用したコミュニティイベントや、ハザードマップや防災マップ制作のサポートなども行っている。

「今まで地域の魅力的な情報をさまざまな媒体でバラバラに提供していたのを、Storyで地図上にひとつにまとめることにより、地域の情報を知るきっかけとして利用していただけると思います。“Share the way we see the world.(世界の見え方を共有しよう)”をコンセプトに、世界中の魅力的な地図を集めるプラットフォームとしてStrolyは活動しています」(明主氏)

Strolyの明主 那生 氏
Strolyの画面

OSMの活動を支える法人組織「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)」の代表である三浦広志氏は今回のイベントについて、「これまでのSOTMJは、マッパーやOSMデータの利用者が自分たちの活動を共有し、お互いにつながっていくことが主なテーマでしたが、今回は外からの目を入れたいという大きなモチベーションがあり、図書館が会場ということもあってARGの岡本さんに講演をお願いしました。今回のイベントが図書館との連携のきっかけとなればいいと思います」と語る。

OSMコミュニティに所属する人の交流イベントであるとともに、コミュニティの外部の立場からOSMについて語る講演を設けることで、より開かれたカンファレンスとなった今回の「SOTMJ2018」。この年次カンファレンスは今後も継続して開催される予定だ。

OSMFJの三浦氏

 

State of the Map Japan 2018
https://stateofthemap.jp/2018/