オープンデータ活用で地域課題解決を目指す「アーバンデータチャレンジ2022」ファイナルステージが開催
実行委員長の関本義秀氏(右)と一般部門で金賞を受賞した「岐阜ロゲ」チーム
地域の課題解決や魅力創出を目的にオープンデータや活用ツール、アイデアなどの創出を目指すプロジェクト「アーバンデータチャレンジ2022 with土木学会インフラデータチャレンジ2022」(主催:社会基盤情報流通推進協議会、公益社団法人土木学会、東京大学生産技術研究所、東京大学空間情報科学研究センター、東京大学デジタル空間社会連携研究機構)のファイナルステージが3月11日(土)、東京大学駒場リサーチキャンパスおよびオンラインのハイブリッドで開催された。
アーバンデータチャレンジ(UDC)は、地方自治体発のオープンデータや社会インフラに関する情報収集や情報配信の環境を整備して、このようなデータを使用したツールやアイデアなどを作品として仕上げるプロジェクト。全国の都道府県単位で地域拠点を認定し、ワークショップなどのイベント開催を通じて持続的なコミュニティの形成・成長・横展開に取り組むことを目的としている。また、このような地域拠点の活動によって創出されたアプリケーションやデータ、アイデアなどを表彰するコンテストも行われる。
同プロジェクトは2013年度にスタートし、2019年度からは土木学会と連携して「土木学会インフラデータチャレンジ」との共同運営として実施している。今回のファイナルステージは1年間を通じてさまざまな地域活動が行われた同プロジェクトを締めくくるもので、今年は「デジタル裾野/南砺研究会」の公開シンポジウムとの合同開催となった。
午前中には南砺市の田中幹夫市長による開会の挨拶のほか、デジタルシティサービス「デジタル裾野」および「デジタル南砺」に関する活動報告やパネルディスカッションが行われた。午後はコンテストに応募された作品の中からファイナルステージに進出した作品の発表が行われ、最終的に応募された作品の中から最終審査会を開催し、優秀作品を決定した。
作品発表に先立って、イベントの実行委員長を務める関本義秀氏(東京大学空間情報科学研究センター 教授)が挨拶し、本年度の取り組みやコンテストの応募状況などについて説明した。
UDCは2019年からセカンドステージへと進み、さまざまな分野で課題を掘り下げていくために、「道路・交通」「住宅・土地・公園・公共施設」など10の分野を設置し、重点分野を毎年決めて各業界と連携しながら進めている。2022年度の重点分野は「住宅・土地・公園・公共施設」および「医療・健康」で、この分野においてコンテストに受賞した場合は一律10万円の賞金加算が行われる。
2022年度の地域拠点は28となり、コンテストの応募作品数は114作品で、このうち105作品が一般部門、9作品がビジネス・プロフェッショナル部門への応募だった。部門ごとの内訳は、アプリケーション部門が30作品、データ部門が11作品、アイデア部門が46作品、アクティビティ部門が27作品。分野別では、重点部門となった「住宅・土地・公園・公共施設」が21作品、「医療・健康」が6作品だった。
続いて、UDC2022の一次審査通過作品のプレゼンテーションが行われた。今年度、一次審査を通過したのは一般部門が15作品で、ビジネス・プロフェッショナル部門が5作品。これらの作品に対して参加者からの投票が行われ、投票結果および審査員による評価をもとに優秀作品が選出された。受賞作品は以下の通り。
【一般部門・金賞】
■岐阜ロゲ
(岐阜ロゲ)
https://www.gifuai.net/?page_id=37554
地図とポイント一覧表を参加者に配り、一定時間内で巡ったポイントの点数の合計点で優劣を競うゲーム「ロゲイニング」のイベントを、関ヶ原、大垣、多治見、各務原など岐阜県各地で実施し、岐阜や下呂、高山、群上などでも実施を計画している。各務原市のイベントでは、90カ所の景勝地や公園、史跡、店舗などにチェックポイントを配した。従来は滞りなく運営を行うために大勢のスタッフが必要だったが、システム構築により大幅に人員を削減してスムーズな運営を行うことができた。
【一般部門・銀賞】
■橋梁流失リスクのオープンデータから始める気候変動適応ワークショップ「X-Bridge」
(X-Bridge Project)
気候変動により水害が激甚化し、橋梁の流失が発生している状況の中、流失リスクの高い橋梁をGISオープンデータを用いて可視化する取り組みを実施した。「全国Q地図」において橋梁データと洪水データを重ねて表示することで水害時流失リスクの高い橋梁(ハイリスク橋)を検出する方法を構築し、その方法を学べるワークショップを日本各地やオンラインを通じて実施した上で、ハイリスク橋の位置がわかるマップを作成した。
■iPhoneで作るバリアフリーマップ
(日本大学経済学部 田中圭ゼミ)
http://barrier-free.dronerice.jp
測量や計測の知識や技術を知らない経済学部生が、iPhoneのLiDAR機能を使ってバリア情報を3D化し、バリアフリーマップを作成した。都内の白山通りにおいて交差点を78カ所、バス停9カ所、駅出入口9カ所、歩道橋2カ所を計測し、交差点境界部の段差の平均高さがバリアフリーに対応しているかどうかを調査した。無償のアプリなどを使うことで、コストを抑えながらデータを取得することができた。
■メタ巡検ーメタバース上で行う新しいフィールドワークの提案ー
(地理×女子)
https://chirijoshiocha.wixsite.com/my-site
メタバース上でフィールドワークを行えるコンテンツを作成した。国土交通省が推進するPLATEAUの3D都市モデルや、国土地理院が提供する地理院タイル、国立国会図書館デジタルコレクションの絵図などが配置されたメタバース上で、オリジナルバーチャルキャラクターが街案内をするという内容で、これにより仮想空間上で土地の歴史や地理的変遷などを学習できる。メタバースプラットフォームのcluster上にアップロードされており、全国の地理系大学に展開している。
【一般部門・銅賞】
■関数創発コミュニティ『かんすうや』
(かんすうや)
https://kansuuya.net/
Excelなどの表計算ソフトで使用するオリジナルの関数をオープンデータを使って作成するコミュニティ。都道府県名を入れると都道府県コードや八地方区分、県庁所在地などが表示される関数や、ICAO空港コード、駅ナンバリング画像、バリアフリー標準案内用記号、日本標準産業分類などを求める関数など、さまざまな種類の関数を創発している。また、国立国会図書館のAPIを活用して書籍の情報を取得し、調べることもできる。
■鬼死骸村絵図デジタルマップ
(鬼死骸村探検隊)
https://umap.openstreetmap.fr/ca/map/map_687571
江戸後期の「鬼死骸村絵図」を、地域住民とともに現地調査を実施し、現在の位置を推測してデジタルマップにして公開した。写真や360°動画、フォトグラメトリの3Dモデルなどにより現状を記録し、地物をレイヤーに分けて分類するとともに、現在の地名や幕末から大正にかけての旧国鉄路線などを隠しレイヤーとして設定した。近世からの地域変遷を知ることで地域の再発見を促し、活動を通じた交流や議論によって地域コミュニティの活性化を目指している。
■防災アプリ「SHS災害.info」の開発
(佐土原高校 情報技術部)
https://www.youtube.com/watch?v=NuhiCMNuefg
情報技術部では、無料の防災アプリ「SHS災害.info」を2017年から開発している。指定緊急避難所に登録されている全国の避難所・避難場所を地図上に表示することが可能で、ハザードマップと重ねることも可能。また、現在地周辺の避難所・避難場所をARで表示する機能も搭載している。宮崎地方気象台とも連携し、気象庁が提供している「危険度分布」(キキクル)と雨雲の予報を重ねる機能や、警戒レベル表なども収録している。
■自治会活動のデジタル化~自治会をハックしよう~
(Code for Muroran)
室蘭市の町内会モデル事業により、モデル地域として自治会を立ち上げる発起人会や市役所とともに、自治会活動のデジタル化を検討し、自治会の立ち上げを目指して準備を進めた。自治会内での情報共有や情報発信としてLINE公式アカウントを活用し、ノーコードで運用しやすい方法を検討した。自治会員からも連絡可能な仕組みにしており、総会の評決もオンラインで行えるようにした。また、ごみ収集情報は自動応答で知らせるようにした。
■激アツ!昆虫マップ
(チーム 激アツ)
https://gekiatsu-konchu-ucwuauyiva-an.a.run.app/landing
虫取り経験が少ない子どもや親を外に連れ出すため、マップ上で昆虫がいそうなところを「激アツ度」として可視化するウェブアプリを開発した。山口県が公開する森林簿のオープンデータを活用し、森林の植生から昆虫が好む樹木がある割合をもとに「激アツ度」を算出するとともに、木の特徴や準備物など虫取りに必要な情報も掲載した。同マップでキャンプ場周辺の虫取りできる場所を可視化することにより誘客につなげることも期待できる。
■ランダムな言葉でめぐる謎解き公園探索
(横井武志氏)
河川敷に整備され、水運の要所としての歴史を持つ「笠松みなと公園」を舞台に、謎解きをしながら公園を探索し、楽しみながら公園の歴史を学べるプログラム「謎解き公園探索」を実施した。謎解きと公園探索を結ぶ地理情報システムとして、世界中を3メートル四方に区切り、それぞれのマス目に固有の3つの単語の組み合わせを割り当てる「what3word」を使用し、ランダムな単語を公園独自のデータとして遊びに活用した。
■インタラクティブなデジタルサイネージ Act-is
(広田 椋祐氏)
デジタルサイネージにウェブ広告の優れている点を採り入れて、視認者の行動把握による双方向型のデジタルサイネージを試作した。デジタルサイネージに接近した人の顔の特徴を記録し、店舗に来店した人の顔の特徴を来店チェッカーで読み取ることで視認者の来店状況を調べる行動追跡機能について、機能が技術的に実現可能であるかを検証した。顔の特徴量のみを記録し画像を保持しない形でプライバシーを保護しながら追跡できる。
■座標とれ~る
(新氏・平岡氏)
https://new-flathill.github.io/
市区町村名から座標系およびEPSGを取得できるウェブアプリケーションを開発した。データベースを作成する際には、市区町村ポイントデータを国土数値情報(市区町村役場)から作成し、EPSGの属性情報などを持ったUTM帯を自作してポイントデータに空間結合させた。不突合が発生した部分は1件ずつ手打ち修正も行った。データおよびウェブページはGithubで公開しており、誰でも利用することが可能で、csvファイルを取得することも可能。
■Linked Data API Navi
(uedayou)
https://uedayou.net/ldapinavi/
自治体などが公開するオープンデータを統一した仕様で検索可能なWeb APIを提供する基盤と、それらを検索できるサイトを構築した。対応するオープンデータ公開基盤は、CKAN、SHIRASAGI、LinkDataなどで、2023年3月時点で21,149のWeb APIを提供しており、データをビジュアライズする機能もサイト内に実装している。Web APIにはSPARQLを採用しており、データ表現の自由度が高く高度な検索機能も利用可能。クエリ生成を自動化し、SPARQLを意識せずに利用できる。
■子ども達とふるさとへの愛着を育てる「くさつお宝マップ」
(草津おみやげラボ情報部)
https://armd-02.github.io/kusatsu_treasure/
スマホから地域の安全な情報を入手し、自ら発信する練習の場を作るウェブアプリ「くさつお宝マップ」を開発し、2年間の活動で100人の参加者によって200件のデータ入力された。また、集約した情報をトランプにまとめたり、すごろくにして出前講座を行ったりした。デジタル地図の活用により、点在する情報からストーリーを生み出し、人やコミュニティを超えた交流を実現するとともに、歴史を価値ある情報として未来へつなげていくことを目指している。
■豊山町における介護予防を目的としたデータの収集・活用
(名古屋大学健康長寿グループ)
PHR(パーソナルヘルスレコード)を活用した高齢者の介護予防支援の体制構築に向けた社会情報学と老年医学の学際研究の一環として、愛知県豊山町において高齢者の介護予防デジタル機器からデータの収集・分析・活用を行った。スマートスピーカーを活用して、収集した会話ログを分析・可視化して活用方法を検討したほか、スマートウォッチを用いて活動量や睡眠時間のデータを収集・加工し,医学的な知見と合わせて個人に合わせたレポートの配信を行った。
【ビジネス・プロフェッショナル部門・最優秀賞】
■観光DX推進2022 in 飛騨高山
(チームそしゃそやぞ)
https://www.hidatakayama.or.jp/info/sansakuwebmap/
飛騨高山の14カ所に設置したAIカメラで通行量を収集し、地元観光事業者と共同でデータの利活用を行った。飛騨牛の飲食店と連携して収集データに基づく営業戦略を提案して売上を増加させたほか、地元観光事業者に向けてGoogleビジネスプロフィールやデータ利活用の勉強会などを開催し、通行量データやオープンデータを活用した観光客向けのマップ「飛騨高山散策Webマップ」を開発した。
【ビジネス・プロフェッショナル部門・優秀賞】
■みんなが使える、パッとわかる オープンデータ活用プラットフォーム「Class Studio」
(鈴鹿守俊氏)
https://studio.class-com.co.jp/v2/portal
ノーコードでオープンデータを活用した地図アプリケーションを作成できるサービス。データを用意してアップロードし、表示方法を設定するだけで、地価公示マップや空き家/空き地台帳マップ、浸水想定区域マップ、新型コロナ感染状況マップなど、さまざまなマップを短時間で作成できる。作成したマップは、情報分析やマーケティング、防災、教育など、さまざまな用途に活用できる。
■インフラ構造物の工事/業務/点検結果などの情報を3D管理するアプリケーション
(富士通株式会社 社会システム事業本部)
インフラ構造物の3Dデータと点検情報の関係が視覚的にわかる3D管理アプリケーションを用いて、インフラ関連情報を一元化した。構造物の画像および現況3DモデルとBIM/CIMモデルを登録して、記録した損傷情報と部材情報を関連付けて管理できる。今回のアーバンデータチャレンジでは国交省から提供されたデータソースを用いて、道路構造物の維持管理における3D/点検データ統合管理のユースケースを作成した。
■浸水想定区域における道路維持管理計画の策定支援
(パシフィックコンサルタンツ株式会社/株式会社三英技研)
3次元点群データや道路施設の点検結果、浸水被害想定データなどを活用し、3次元空間上に可視化することで、道路の老朽化や浸水害など、さまざまな観点から対象地域の状況を分析できるツールを作成した。老朽化や浸水害に関連するデータをまとめて表示することが可能で、ゲームエンジン「Unity」を活用することで3Dデータの描画や動作の高速化を実現。オンライン/オフライン問わず誰でも容易に操作できる。
■PLATEAU YOKOHAMA タンジブルインタフェース
(PLATEAU YOKOHAMA Project)
https://plateauyokohamatangible.peatix.com/
建築模型で表現した物理空間とVRで体験できるサイバー空間をリアルタイムに連動させるツール「タンジブル(触れることができる)インターフェイスXR」を開発した。盤面で模型を動かすと瞬時にサイバー空間に反映され、模型を動かして作られた「未来のまち」にVRゴーグルを装着して入り込み、歩き回ることができる。従来の都市計画における専門家と一般市民のコミュニケーション上の非対称性を解消し、高いレベルでの合意形成を実現する。
このほかに、「国土交通データチャレンジ賞」や「土木学会インフラデータチャレンジ特別賞」、「オープンガバメント推進協議会賞」、「国立国会図書館特別賞」、「学生奨励賞」などの表彰も行われた。また、今年の活動に参加したすべての拠点の中から選ばれる「ベスト地域拠点賞」には岩手ブロックが選ばれた。なお、ベスト地域拠点賞を受賞した拠点は翌年度のUDCにおいて中間シンポジウムの会場となるため、UDC2022の中間シンポジウムは岩手で開催される予定となった。
「アーバンデータチャレンジ」公式サイト
https://urbandata-challenge.jp/
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