マップボックス・ジャパンとOSMユーザーの交流イベント 「mapbox/OpenStreetMap meetup」第7回レポート

マップボックス・ジャパンとOSMユーザーの交流イベント 「mapbox/OpenStreetMap meetup」第7回レポート

地図サービスの開発プラットフォームを提供するMapboxと、フリーでオープンな地理空間情報を市民の手によって作るプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」のユーザーコミュニティとの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」の第7回が3月3日、オンラインにて開催された。

同イベントは、Mapboxの日本法人であるマップボックス・ジャパン合同会社が青山学院大学の古橋研究室および NPO法人CrisisMappers Japan(災害ドローン救援隊DRONEBIRD/JapanFlyingLabs)、OSGeo.JP、OpenStreetMap Foundation Japan(OSMFJ)と協力して開催するもので、7回目となる今回は「地図とクルマと三次元」と題して、主に自動運転技術とそのベースとなる3D地図をテーマにさまざまな講演が行われた。

司会を務めた青山学院大学の古橋大地教授

■自動運転のための3D地図プラットフォーム

冒頭では、青山学院大学教授であり、マップボックス・ジャパンのアンバサダーでもある古橋大地氏と、マップボックス・ジャパンCEOの高田徹氏による挨拶が行われ、続いて株式会社マップフォー(Map IV)代表取締役の橘川雄樹氏が登壇した。

Map IVは名古屋大学発のスタートアップ企業で、自動運転技術を開発する株式会社ティアフォー(Tier IV)の子会社のひとつであり、LiDARを使ったSLAM(自己位置推定および環境地図作成)による3D地図作成や位置推定技術をもとにしたデータ計測システムや自動運転実証支援事業などを展開している。

具体的な事業内容としては、LiDAR SLAM技術を用いた3D地図作成ソフトウェア「Map IV Engine」や、地図データ計測システム「SEAMS/SEAMS LV」の開発、車両位置推定のためのオープンソースソフトウェア「Eagleeye」や単眼カメラを用いた位置推定システム「Iris」の開発、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を用いた自動運転システムの実証サポートなどを行っている。

Autowareで使われる地図データには、レーザースキャナーで取得されたポイントクラウド(点群)データと、道路ネットワークや信号、標識、路面標示、横断歩道などを収録したベクトルマップの2種類があり、ベクトルマップのフォーマットにはOSMベースのLanelet2を採用し、Autoware向けにカスタマイズしたものを利用している。

このような地図データとセンサーデータを照合することにより、自車両の位置や姿勢を算出することが可能となり、信号機の色検出や停止線での停止、自車両の走行軌跡の算出に加えて、他車両の検出や走行軌跡予測など高度な自動運転が実現可能となる。

3D地図データを整備する上で重要となるのは更新作業で、たとえば建物が建て変わると位置推定に影響が出るし、信号の位置が変わると信号認識に影響が出てしまう。しかし、地図データの計測車両を都度、走行させて最新の地図を作成し直すのは手間がかかるため、Map IVでは自動運転車両のセンサーデータを活用して、地図データと現実が異なる箇所を抽出して更新しており、走行ログから位置推定の安定性や地図更新の可否を判断する研究開発を行っている。

このほか、都市のデジタルツインに使用される3Dモデルデータを活用して、自動運転のシミュレーションを行っているほか、グループ会社の株式会社シナスタジアでは、3D地図やLiDARから得られる高精度位置情報と連動したAR/VRエンターテインメントの開発にも取り組んでいる。

橘川雄樹氏は「3D地図データはさまざまな領域において非常に有用ですが、まだ十分に活用されていないので、今後は3D地図データの収集・配信・更新プラットフォームを構築して、色々な領域に展開して新しい価値を創造していきたいと考えています」と語り、パートナーやメンバーを募集中であると呼びかけた。

LiDAR SLAM技術を用いて作成された3D地図

■ナビゲーションSDKの先読み機能や地図投影法の切り替え機能を紹介

続いての講演では、マップボックス・ジャパンによるMapboxの機能紹介が行われた。ひとつ目はカーナビゲーション用SDKの一機能である「Mapbox Horizon(マップボックス ホライズン)」で、同機能を使用することにより、スクールゾーンや建設現場などが近付いていることをドライバーに警告したり、注意エリアに入ったときにアラートを表示したり、注意エリアから出たときに追跡したりと、運転中に遭遇する情報を先読みして車に取り込むことができる。

Mapbox Horizonは、直線距離ではなく右左折などの道路ルールを考慮して実際に走行する時間を計算できる「GraphAccessor」や、周辺の道路状況やドライバーの過去の行動を考慮してドライバーが最も選ぶ確率のたかいルートを選択する「MPP(Most Probable Parth)」といった技術を使っている。このような先読みの機能は、これまでハイエンドカーに搭載される傾向があったが、MapboxのナビゲーションSDKを使うことで、より一般的な車や車載器に最新技術を取り込むことができる。

ドライバーに先読み情報を提供するMapbox Horizon

もうひとつの機能は、Mapbox GL v2.6の新機能である地図投影法の切り替え機能「Adaptive Projection(アダプティブ プロジェクション)」。Mapboxで使える地図投影法はこれまでウェブメルカトル図法のみだったが、Adaptive Projectionにより複数の投影法を切り替えられるようになった。これにより、用途に合わせた正確な地図表現が可能となるとともに、見栄えも良くすることができる。

用意されている地図投影法は、アルベルス図法、ナチュラルアース図法、ランベルト正確円錐図法、イコールアース図法、ヴィンケル図法、正距円筒図法の6つで、従来のウェブメルカトル図法のベクトルタイルをベースとして、それぞれの地図投影法に対応するアルゴリズムを適用することで切り替えを実現している。また、ズームインした場合に歪みを補正することにより、北が上となる違和感のない地図に見えるようにしている。

6つの地図投影法が選択可能に

■ウクライナ各地のライブカメラの位置を可視化

講演に引き続き、「エンジニアセッション」と題してマップボックス・ジャパンの人材募集に関する情報提供が行われたほか、ライトニングトークも開催された。

最初のセッションでは、東京の公共交通のリアルタイム3Dマップ「Mini Tokyo 3D」の開発者であり、このたびマップボックス・ジャパンのアンバサダーにも就任した草薙昭彦氏が登壇し、1月2日~3日に生配信した「箱根駅伝3D」について紹介した。これは箱根駅伝の各チームの走行位置をランナーの3Dモデルアニメーションで表示したコンテンツで、マップ上の自由な位置で各チームを「前方」「後方」「ドローン」などさまざまな視点から観察できる。テレビ中継には映らない下位集団の状況も追うことが可能で、ランナーの速度変化やコース標高のチャートも表示される。

箱根駅伝3D

また、最近ではウクライナ危機に関する情報提供として、マップ上でウクライナ各地のYouTubeライブカメラの場所を可視化した「ウクライナ ライブカム」を開発・公開したことも発表した。同マップにはすでに50カ所以上のライブカメラが登録されている。「世界中で情報が錯綜していますが、今、1人1人に求められているのは、情報の信頼性を自ら判断し、行動することであると思いました。ここにオープンデータが貢献できるのは大きいと思います。新しい技術によって状況を理解する一助になるのではないかと思います」と草薙氏は語った。

ウクライナ ライブカム

このほか、青山学院大学の平澤彰悟氏による、オフラインウェブ地図サーバー「国連UNVT Portable」を紹介するセッションも行われた。同サーバーは、オフライン環境下で動くオープンソースのウェブ地図サーバーで、Raspberry Piとオープンソースソフトウェア群「国連ベクトルタイルツールキット」を用いて実装している。災害時にはコンパクトな筐体に収められたこのサーバーを行政に渡すことで、オフラインにおいても地図を使える環境を実現する。

国連UNVT Portable

最後のセッションでは、OSMの地図データをプリントアウトして切り絵にしたアート作品を発表している秋葉愛加氏による発表が行われた。秋葉氏は、東京スカイツリーから見た景色を見て、「切り絵として手元に残しておけるかもしれない」と思ったのがきっかけでこの活動を開始した。行ってみたい場所や思い出の場所など、好きなエリアをひたすら切り抜くのが楽しくて続けているという。

使用する地図はOSMの標準レイヤーで、編集せずにそのまま印刷し、折り紙を重ねてそのまま切り抜いている。1枚を切り抜くのに約7~8時間もかけており、道路や海など、それぞれの地図のイメージに合った形で、とくにルールを決めずに自由に切るのを楽しんでいる。最近では地図の楽しみを共有する場所を作るため、切り絵をベクトルデータにしてNFT(Non-Fungible Token)アートとしてメタバース上にコレクションとして展開している。

「リアルの切り絵はとても小さいですが、メタバース空間において大きくして飾り、インテリアとして見てもらう、そういう未来があっても素敵だなと思って取り組んでいます」(秋葉氏)

切り絵地図アート

■URL
Mapbox Japan
https://www.mapbox.jp/
mapbox/OpenStreetMap meetup
https://mapboxjpmeetup07.peatix.com/
Mini Tokyo 3D
https://minitokyo3d.com/
ウクライナ ライブカム
https://nagix.github.io/ukraine-livecams/