Wheelmap創設者などが登壇、マップボックス・ジャパンとOSMユーザーの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」第8回レポート

Wheelmap創設者などが登壇、マップボックス・ジャパンとOSMユーザーの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」第8回レポート

地図サービスの開発プラットフォームを提供するMapboxと、フリーでオープンな地理空間情報を市民の手によって作るプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」のコミュニティとの交流イベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」の第8回が7月28日、オンラインにて開催された。

このイベントは、Mapboxの日本法人であるマップボックス・ジャパン合同会社が、青山学院大学の古橋研究室および NPO法人CrisisMappers Japan(災害ドローン救援隊DRONEBIRD/JapanFlyingLabs)、OSGeo.JP、OpenStreetMap Foundation Japan(OSMFJ)の協力のもとに開催するもので、8回目となる今回は「アクセシビリティ・マップの未来」と題して、バリアフリーマップをはじめアクセシビリティ全般をテーマにさまざまな講演が行われた。

■バリアフリーマップ「Wheelmap.org」の創設者が登壇

冒頭では、マップボックス・ジャパンのアンバサダーを務めている青山学院大学教授の古橋大地氏と、マップボックス・ジャパンCEOの高田徹氏による挨拶が行われ、続いて車椅子ユーザー向けバリアフリーマップ「Wheelmap.org」の創設者の1人であり、同サービスを運営するドイツの非営利団体Sozialhelden e.V.に所属するHolger Dieterich氏による講演が行われた。

青山学院大学の古橋大地氏(左上)、マップボックス・ジャパンの高田徹氏(右上)と矢澤良紀氏(左下)、Sozialhelden e.V.のHolger Dieterich氏(右下)

Wheelmap.orgはバリアフリーマップを作成する世界的なプロジェクトで、2011年にスタートした。地図上の飲食店や小売店、駅、バス停、銀行、行政施設、映画館、博物館などさまざまな施設に車椅子のアクセシビリティ評価を付けることが可能で、緑色(車椅子の利用が可能)、黄色(車椅子の利用が一部可能)、赤色(車椅子利用不可)の3色で評価できる。未評価の施設は灰色となっており、誰でも評価を行えるほか、そのスポットの写真やコメントを追加することもできる。

Wheelmap.org

Dieterich氏によると、Wheelmap.orgには世界中で100万件以上のバリアフリー情報が収録されており、10万枚以上の写真が投稿されている。また、このサービスは33カ国語に翻訳されており、中でも最初に外国語版をリリースしたのは日本語版だったという。

Wheelmap.orgはベースマップにMapboxの地図システムを採用しており、地図データはOSMで、バリアフリー情報もOSMと相互に連携している。OSM側で編集したアクセシビリティ評価はWheelmap.orgの地図に反映され、逆にWheelmap.orgで付けられた評価もOSMの地図データに反映される。

さらにSozialhelden e.V.は2015年、多種多様なアクセシビリティ情報にアクセスしやすくするためのプロジェクト「Accessibility Cloud」を提供開始した。同プロジェクトのウェブサイトでは、さまざまな組織が提供するアクセシビリティ情報のAPIにアクセスすることが可能で、街中のエレベーターの稼働状況などリアルタイムデータも扱っている。

Dieterich氏は最後に、「アクセシビリティ情報をマッピングする取り組みはまだ始まったばかりです。この取り組みによって社会に幅広いアクセシビリティに関する議論が行われていることにとても感謝しています」と語った。

Accessibility Cloud

■OSMをもとに音声で周辺情報を案内するSoundscape

続いて、Microsoft社のJarnail Chudge氏による講演も行われた。Chudge氏は、3Dオーディオ技術を使って移動を支援する「Microsoft Soundscape」について紹介した。Soundscapeは無料のiOSアプリで、端末の位置情報をもとに周辺情報を距離とともに音声で読み上げることが可能。よく行く場所をマーカーとして保存することができるほか、音声ビーコンを設定することもできる。

このアプリは有線・無線どちらのヘッドホンでも利用可能で、ヘッドトラッキング機能を搭載するヘッドセットを利用することで、顔が向いている向きをSoundscapeが認識できるようになる。

Soundscapeで読み上げられるさまざまな情報はOSMのデータをもとにしている。Chudge氏はOSMを情報ソースに選んだ理由として、OSMがコミュニティによって生成された情報であり、Bing MapsやGoogle Mapsなどの地図サービスにはないアクセシビリティに関する詳しい情報が提供されていることを挙げた。世界中のマッパーが集めた情報を確実にSoundscapeに反映させるため、可能な限り迅速に最新の情報に更新しているという。

Soundscapeではユーザーにとって有用な情報を、現在地に基づいて抽出しており、階段やエレベーター、エスカレーター、交差点など危険な場所の情報に確実にアクセスできるように取り組んでいる。Soundscapeは視覚的なディスプレイから音声によるディスプレイに変えるアプリを目指しており、このアプリを日常的に使うことで、ユーザーは自分が歩く場所との繋がりを強く感じられるようになり、新しい発見をすることができる。

Chudge氏は締めくくりとして、「世界中、そして日本のOSMコミュニティの活動にはとても感謝しています。MicrosoftとOSMとのコラボレーションによって、OSMデータへできるだけ最新の情報が反映されることに対して、大きな関心が寄せられているからです。私たちはアクセシビリティに関する体験やSoundscapeに関するさまざまなフィードバックを歓迎します」と語った。

Soundscapeの概要

■新機能「Mapbox Globe view」ほか最新の話題を紹介

次にマップボックス・ジャパンのテクニカルアカウントマネージャー(TAM)兼プロダクトディレクターを務める矢澤良紀氏が、Mapboxに関する最新の話題を紹介した。

・Mapbox Globe view
球体の地球儀表示を使用できる新機能で、同機能をオンにすると、ある一定のズームレベルまでズームアウトすると地球儀表示となり、再びズームインするとウェブメルカトル図法に戻る。空間の色や星、地球周辺の大気の色などを調整することが可能で、Mapbox StudioとMapbox WebおよびモバイルSDKの両方で利用できる。

地図サービスの多くで採用されているウェブメルカトル図法では北極と南極付近の表現が実際のサイズと大きく異なるという問題があるが、Globe viewを使うことでこれを正しく表示できる。これにより、ゲームやカーナビ、ストーリーテリングなど、さまざまなコンテンツでユーザーの目を惹く表現が可能となる。

Mapbox Globe view

・Navigation SDKのアップデート
3D表示が可能となり、街中の建物が立体表示されるほか、車線や歩道、樹木なども表示されるようになる。Mapboxのレンダリングの技術とナビゲーション技術が組み合わさることにより、さらに新しいカーナビのエクスペリエンスが実現する。

Navigation SDKは海外ではすでにさまざまな自動車メーカーで採用されており、日本でもロードテストを行っている。日本道路交通情報センター(JARTIC)の渋滞情報や高速道路の料金検索などで採用予定となっている。

Navigation SDK

・アクセシビリティに対するMapboxの取り組み
現在はウェブサイトのタブを選ぶ際に「地図がある」ということしか音声の読み上げが行われていないが、今後は地図の中の情報も読み上げる機能を提供していきたいと考えている。特定のエリアの情報だけを読み上げたり、ズームイン/アウトをボイスコントロールで行ったりするなど、誰でも地図の内容を把握できるようにしたいと考えている。

また、Mapbox Studioでは「色覚多様性シミュレーター」機能を備えている。色覚の多様性に対応したさまざまなフィルターを用意しており、さまざまな色覚タイプに合わせた地図を作成できる。

色覚多様性シミュレーター

■バリアフリーマップのアプリ「WheeLog!」の取り組みを紹介

ライトニングトークでは、一般社団法人WheeLog代表の織田友理子氏が登壇し、さまざまなバリアフリー情報を投稿してバリアフリーマップを作成するアプリ「WheeLog!」の取り組みについて紹介した。WheeLog!では施設のバリアフリー情報を投稿できるほか、車椅子の走行ログを投稿し、ほかのユーザーと情報を共有できる。

WheeLog!

また、タイムラインで最新の投稿を確認できるほか、ユーザー間で交流できる「つぶやき機能」や、知らない場所のバリアフリー情報を教えてもらえる「リクエスト機能」なども備えている。

ユーザーからは、「自分が行った場所や行ける場所を投稿して誰かのためになっているというのがすごく嬉しい」という感想が寄せられ、アプリに投稿しようというモチベーションが外出や社会参画につながっている。

また、アプリで情報を集めるだけでなく、街中での車椅子の体験会など健常者に車椅子ユーザーへの理解を深めもらう取り組みも行っている。最近ではさまざまな学校でも活用されるようになったほか、Universal MaaSプロジェクトとの連携やオープンデータの公開などにも取り組んでいる。

「“誰に届けたいか”、“どんな人の人生を変えていきたいか”、“どんな人と一緒にやりたいか”、というのを常に考えながら取り組んでいます。みんなと一緒にバリアフリーマップをもっと充実させて、関わる人たちと幸せになっていけたらいいなと思っています」(織田氏)

このほか、イトナブのPen氏による「みんなのトイレマッププロジェクト」や、 Equal Entry社の柳川健二氏によるアクセシビリティの技術監査の取り組みについての発表も行われた。

マップボックス・ジャパンの高田CEOはクロージングの挨拶として、「今日はとても勉強になりましたし、改めてこの課題は重要だと思いましたので、マップボックスとしてもできることを探していこうと思います」と語った。本ミーティングは今後も定期的に開催を続けていく予定で、次は今秋での開催を予定している。

■URL
Mapbox Japan
https://www.mapbox.jp/
mapbox/OpenStreetMap meetup
https://mapboxjpmeetup07.peatix.com/
イベントの動画
https://youtu.be/e2s0PRnk-eA
Wheelmap.org
https://wheelmap.org/
Accessibility Cloud
https://www.accessibility.cloud/
Microsoft Soundscape
https://www.microsoft.com/ja-jp/enable/soundscape
WheeLog!
https://wheelog.com/hp/
みんなのトイレマップ
https://toiletmap.net/
Equal Entry
https://equalentry.com/